【Amazon薬局、上陸】このままでは「本屋の二の舞」だが…「Amazonに対抗できる薬局、駆逐される薬局」の分かれ目

【Amazon薬局、上陸】このままでは「本屋の二の舞」だが…「Amazonに対抗できる薬局、駆逐される薬局」の分かれ目
(※写真はイメージです/PIXTA)

自動調剤技術の研究開発を行い、日本発の「ロボット薬局」の開発に成功した薬局経営者・渡部正之氏。渡部氏は、薬剤師は今こそ単純作業や対物業務から解放されて、対人業務を中心とした薬剤師職能を発揮できるクリエイティブな立場へと進化していくべきだと言います。圧倒的利便性を武器とする「Amazon薬局」が日本の薬局市場を狙う今、患者にとって「Amazonよりも価値のある薬局」をつくるには、どうすればよいのでしょうか?

 

薬局を、処方せんなしでも気軽に健康相談できる場所へ

■地域連携薬局や専門医療機関連携薬局もスタート

前回解説した健康サポート薬局に加えて、地域連携薬局や専門医療機関連携薬局という新たな認定薬局制度もスタートしています。これらは2021年8月に施行された改正薬機法によって定められた制度です。

 

地域連携薬局は、外来受診時だけではなく在宅医療への対応や入退院時を含め、ほかの医療機関と一元的・継続的に服薬情報などを情報連携する体制を整えた薬局のことです。

 

薬局の構造設備やほかの医療提供施設と情報共有できる体制、地域に薬剤を安定供給するための体制、在宅医療などに関するいくつかの要件を満たすと地域連携薬局の認定を受けることができるようになります。

 

地域連携薬局は2022年2月末現在で2043存在し、数としては順調に増えていることがうかがえます。一方で内訳をみると大手調剤チェーンに偏っている、一部の算定要件のハードルが高く取得が難しいなど課題もあります。

 

専門医療機関連携薬局は、がんなどの専門的な薬学管理が必要な患者に対して、ほかの医療提供施設と連携しながら、より専門性が高い特殊な調剤や薬学管理を提供する薬局です。薬局の構造設備や情報共有などに加えて、専門的な薬学的知見に基づく調剤および指導を行うための要件などが定められています。

 

専門医療機関連携薬局は、より高い専門性が求められるために要件が地域連携薬局よりも厳しくなっています。2022年2月末現在の専門医療機関連携薬局数は94にとどまっています。

 

地域連携薬局と専門医療機関連携薬局のどちらの認定を目指すのかは、薬局の性質によって異なります。しかしいずれにしても、将来的にはこうした要件を満たしてよりきめ細かな地域のニーズに対応していくことが求められているのだと思います。

「処方せんナシで相談」はAmazon薬局にできないこと

健康に関する相談拠点として薬局の地位を確立することは、Amazon薬局に対抗する有効な策の一つでもあります。現在アメリカではAmazon薬局でも薬剤師に相談をすることはできますが、処方せんが必須であり、さらに対面ではなくオンライン上で行われています。

 

ならば私たち薬局・薬剤師が気軽に立ち寄れる健康拠点となることができれば、これに勝るAmazon薬局への対抗策はありません。こと健康に関することは、オンラインで済む場合もあれば、やはり対面で「ここがつらい」「これが不安だ」と相談したいこともあります。

 

そのようなときに処方せんがなくてもいつでも立ち寄れて、なじみのかかりつけ薬剤師が「いつでも相談に来てくださいね」「何かあれば、いつでもうかがいますよ」と言ってくれたら、これほど心強いことはありません。そのような安心感を薬剤師が与えることさえできれば、患者は決してAmazon薬局だけに頼ることはないと思います。

服薬指導とは「健康に関するコンサルティング」である

私は服薬指導とは何かということを突き詰めていくと、それは健康に関するコンサルティングになるのではないかと考えています。ところが薬剤師は今、服薬指導を薬に関する説明をすることだというように限定的に解釈しています。

 

その認識を今後は拡大し、薬剤師は健康に関わるもっと幅広いコンサルティングをすべきだと私は考えています。そしてそのためには対話や、患者宅に行くことが必要です。

 

Amazon薬局が画面から出て来て患者宅を訪問することはありませんが、私たちは患者のもとへ行くことができます。そして、そのような取り組みを重ねることによって患者の信頼を得ることができれば、それはAmazon薬局に立ち向かう大きな武器となり得るのです。

 

Amazonによって書店のほとんどは駆逐されてしまいました。一方で、Amazonの脅威に負けずに生き残っている書店もあります。それがどのような書店かというと、例えば顧客にあった本を選んで勧めてくれる、本のソムリエのような人がいます。

 

あるいはカフェを併設して本を読みながらリラックスできたり展示方法に工夫がしてあったり、さまざまなイベントが企画されたりするなど、オリジナリティがある書店が生き残っている書店です。これは薬局にも同じことがいえると私は思います。

 

薬剤師の重要な役割に受診勧奨を行うことがありますが、体調に不安を感じたときに「どの診療科に行けばいいか分からない」と感じる患者は多くいます。このようなときにも薬局は相談相手になれるはずです。専門家として患者の相談に応じつつ、必要に応じて適切な診療科につないでいくことも、薬剤師に求められる重要な役割だと思っています。

規制改革推進会議が調剤業務の効率化を提言

薬局における対人業務の充実については、規制改革推進会議でも大きなテーマの一つになっています。政府の規制改革推進会議が2021年にまとめた「規制改革推進に関する答申」では、「調剤業務の効率化」が盛り込まれました。調剤業務の効率化については「薬局における薬剤師の対人業務を充実させるため、調剤技術の進歩や医薬品の多様化等の変化を踏まえ、調剤に係る業務プロセスの在り方を含め、医療安全を確保しつつ調剤業務の効率化を進める方策を検討し、必要な見直しを行う」ことが明記されています。

 

Amazon薬局の脅威を考えるとこのような改革は必要だと思います。なぜなら、Amazon薬局にとって格好の的は生産性の低い薬局だからです。生産性の低い薬局ほど、比較した際にAmazonの利便性が際立ちますし、市場を奪いやすいのです。既得権にしがみつけばつくほど、手作業による調剤を続ければ続けるほどAmazonにとっては好都合です。

 

そして規制改革推進会議が目指す調剤業務の効率化・対人業務の充実化を実現し、Amazon薬局に対抗するためには、日本中の薬局でロボット化、ICT化を進めることが必要不可欠だと思います。

 

 

渡部 正之

株式会社メディカルユアーズ 代表取締役社長、薬剤師

 

兵庫県神戸市出身。薬学部卒業後、製薬会社のMR、薬局薬剤師を経て、2011年にメディカルユアーズを創業。2019年3月に日本初のロボット薬局(自動入庫払出装置)を大阪梅田で開発した。薬局業界の旧態依然とした体質に危機感をもち、ロボット、ICT、AIを用いた自動調剤技術の研究開発に積極的に取り組むなど異端児として新たな展開を行う。

薬剤師の本来の職能発揮を提唱し、職能レベルの向上・職域拡大、働きやすい環境づくりに力を注いでいる。

 

※本連載は、渡部正之氏の著書『ロボット薬局 テクノロジー×薬剤師による薬局業界の生き残り戦略』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

ロボット薬局 テクノロジー×薬剤師による薬局業界の生き残り戦略

ロボット薬局 テクノロジー×薬剤師による薬局業界の生き残り戦略

渡部 正之

幻冬舎メディアコンサルティング

【薬局経営に革命を起こす「ロボット薬局」とは?】 ネット通販大手のAmazonが2020年11月17日に、処方箋医薬品の注文を受け付ける「Amazon薬局」のサービスをアメリカで開始しました。 同様の取り組みはカナダやオースト…

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