「同じ薬をもらうためだけに受診」の負担減…ついに「再利用できる処方せん」解禁

「同じ薬をもらうためだけに受診」の負担減…ついに「再利用できる処方せん」解禁
(※写真はイメージです/PIXTA)

日本発の「ロボット薬局」の開発に成功した薬局経営者・渡部正之氏は、薬剤師は今こそ単純作業や対物業務から解放されて、対人業務を中心とした薬剤師職能を発揮できるクリエイティブな立場へと進化していくべきだと言います。患者側にも医療者側にもメリットのある「繰り返し使える処方せん」を例に、これからの薬剤師に求められる役割について見ていきましょう。

 

同じ処方せんを繰り返し使える「リフィル処方」

リフィル処方も薬剤師が職能を発揮する対人業務の一つになると考えられます。

 

リフィル処方とは、症状が安定している患者に対して一定期間内に同じ処方せんを繰り返し使える仕組みのことです。アメリカやイギリス、フランスをはじめとする諸外国ではすでに導入されていて、特にリフィル処方の歴史が古いアメリカでは半世紀以上前からリフィル処方による調剤が行われています。

 

日本でもこれまで繰り返し導入の是非が議論されてきました。しかし患者の受診回数が減ることで患者の状態悪化や副作用の発見が遅れたり、医療機関が得られる診療費が少なくなったりするという懸念から医師会をはじめとする関係団体の合意が得られなかったのです。そのほかにもさまざまな理由があり、残念ながらこれまで導入には至りませんでした。そして2016年、リフィル処方の代わりに分割調剤という制度が導入されたのです。

 

分割調剤とは長期処方の薬の家庭での保存が困難な場合や初めて処方された後発医薬品に対する不安を取り除くため短期間で試してみる場合、そのほか患者の服薬状況などにより服薬に薬剤師のサポートが必要だと医師が判断した場合に何回か(最大3回)に分けて調剤を行う仕組みです。リフィル処方が1枚の処方せんを繰り返し使えるのに対して、分割調剤は分割する回数に応じた枚数の処方せんを医師が発行する必要があります。

 

分割調剤を行うと薬剤師が患者と会う機会が増えるため、残薬の削減やポリファーマシー予防が期待できると考えられていましたが、実際は分割調剤の指示のある処方せんは1割未満であり、ほとんど医療現場で活用されることはありませんでした。その理由としては処方せんを毎回薬局に提出する必要があり煩雑、患者の受診回数が減り医療機関にとってはデメリットになるなどの理由が考えられます。

 

こういったデメリットについて薬剤師会は予測できたはずですが、リフィルに対する医師会の反対が強かったので、あえて合意を得やすい分割調剤を法案に乗せるという戦法だったのだと思います。実際に分割調剤は、導入されましたがあまり普及していません。やはり薬剤師がアセスメントを行うリフィルでなければ普及しないのだと思います。

 

しかしついに2022年度の調剤報酬改定でリフィル処方が実現しました。医師は症状が安定している患者に対して、リフィル処方を行うことが可能となったのです。ただし湿布薬や、投薬量の限度が決まっている医薬品のリフィル処方はできません。

 

リフィル処方を行う場合のさまざまな規定があります。例えば一回あたりの投薬期間と総投薬期間については、患者の病状などを考慮したうえで医師が判断しますが、リフィル処方せんの使用回数の上限は3回と定められています。また薬局は1回目(3回調剤をする場合は2回目も)の調剤をしたときに、リフィル処方せんの表に調剤日と次の調剤予定日を、裏に調剤を行った薬局と薬剤師の名前を記載してその写しを保管しなければなりません。さらに、患者の服薬状況などを確認してリフィル処方せんによる調剤をするべきではないと判断した場合は調剤を行ってはならず、その場合は患者への受診の勧奨、処方医への情報提供をする必要があります。

リフィル処方で薬剤師の職能が発揮できる

リフィル処方の導入は、日本の医療環境を大きく変えるきっかけになると私は考えています。リフィル処方は患者、国、医師、薬剤師などそれぞれの立場から見てもメリットがある仕組みです。患者は症状が安定していて同じ薬を飲み続けている状態のときであれば、単に薬をもらうためだけに病院やクリニックを受診するという時間的・経済的負担を軽減することができます。また国にとっても同じ処方せんをもらうためだけの受診が減れば、医療費の抑制につながるというメリットがあります。

 

医師は単純業務から解放され、よりクリエイティブな業務にシフトできるようになります。

 

医師にとっての単純業務の一つは前回と同じ処方を繰り返す、いわゆる「Do処方」です。

 

同じ薬を求めて受診する患者の一部でも薬剤師が引き受けることができれば、その分医師はより時間をかけて診るべき患者に集中できます。あるいは新型コロナウイルス感染症の対応も含むより高度な急性期医療に特化したり、在宅医療に取り組む時間を確保したりすることができるはずです。

 

薬剤師の場合は、リフィル処方の導入によってよりレベルの高い対応が求められるようになります。患者が医療機関を受診する間隔は長くなるため、その間の症状の変化や副作用の発現などさまざまな兆候を見逃すことなくキャッチし必要に応じて医師の受診へとつなげることができるのは、患者に対面で薬を渡す薬剤師だけになります。それは薬剤師が職能を発揮できるという点や、かかりつけ薬剤師の重要度が増すことが期待できる点から薬剤師のやりがいにつながると私は考えています。

 

リフィル処方については導入が決まったばかりの仕組みですし、患者の受診回数の減少などの理由から医師などの反対も根強いことが予想されます。また反対意見のなかには、すべての薬剤師が患者をフォローできるスキルをもっているとは限らない点を不安視する声も聞かれます。

 

しかしリフィル処方に本気で取り組んで、患者の薬物療法の安全を守りつつ医療費抑制にも貢献できるのは薬剤師しかいないのです。そのために薬局業界はさらなる教育・研修やロボット化、ICT化による業務の効率化を進めて、薬剤師にしかできない業務に取り組める環境をつくっていく必要があります。

 

 

渡部 正之

株式会社メディカルユアーズ 代表取締役社長、薬剤師

 

兵庫県神戸市出身。薬学部卒業後、製薬会社のMR、薬局薬剤師を経て、2011年にメディカルユアーズを創業。2019年3月に日本初のロボット薬局(自動入庫払出装置)を大阪梅田で開発した。薬局業界の旧態依然とした体質に危機感をもち、ロボット、ICT、AIを用いた自動調剤技術の研究開発に積極的に取り組むなど異端児として新たな展開を行う。

薬剤師の本来の職能発揮を提唱し、職能レベルの向上・職域拡大、働きやすい環境づくりに力を注いでいる。

 

※本連載は、渡部正之氏の著書『ロボット薬局 テクノロジー×薬剤師による薬局業界の生き残り戦略』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

ロボット薬局 テクノロジー×薬剤師による薬局業界の生き残り戦略

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渡部 正之

幻冬舎メディアコンサルティング

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