過去の遠隔診療は「特例的な扱い」だったが…
情報通信機器を応用した遠隔診療(テレビ電話や、電子メール、ソーシャルネットワーキングサービス等の情報通信機器を組み合わせたもの)は、従来より「医師法20条」に違反しないかどうかが問題となってきました。医師法20条は、「医師は、自ら診察しないで治療をし」てはならないと規定しており、遠隔診療での診療が「診察」に該当するかどうかが議論されてきました。
その中で、厚生省健康政策局長の健政発第1075号平成9年12月24日の「情報通信機器を用いた診療(いわゆる「遠隔診療」)について」(以下「平成9年遠隔診療通知」といいます)において、主として、以下のような解釈が出されました。
医師法20条等における「診察」とは、問診、視診、触診、聴診その他手段の如何を問わないが、現代医学から見て、疾病に対して一応の診断を下し得る程度のものをいう。したがって、直接の対面診察による場合と同等ではないにしてもこれに代替し得る程度の患者の心身の状況に関する有用な情報が得られる場合には、遠隔診療を行うことは直ちに医師法20条等に抵触するものではない。
「〈診察〉は、医師……と患者が直接対面して行われることが基本であり、遠隔診療は、あくまで直接の対面診療を補完するものとして行うべきものである」としたうえで、留意事項として、主に、以下のような事項が挙げられました。
①初診及び急性期の疾患に対しては、原則として直接の対面診療によること。
②直近まで相当期間にわたって診療を継続してきた慢性期疾患の患者など、病状が安定している患者に対して行うこと。
③例えば、離島、へき地の患者の場合など往診又は来診に相当な長期間を要したり、危険を伴うなどの困難がある場合等に行われるべきであること。
そのため、平成9年当時、遠隔診療は、あくまでも、慢性期疾患の患者などの病状が安定している患者で、離島やへき地の患者などに限定した場合に例外的に許されるものであると考えられてきました。
その後、平成15年、平成23年にも、上記の平成9年遠隔診療通知が改正され、遠隔診療の対象となり得るものが別表として示されましたが、それでも大きな方向転換はされたとは言い難い状況でした。
コロナ収束後も、社会的ニーズ・期待は高まると予想
しかし、平成29年に、上記の平成9年遠隔診療通知が大きく改正され、
①「離島、へき地の患者」とはあくまで例示であること
②平成9年遠隔診療通知(平成23年までの改正を含む。)で示された別表はあくまで例示であること
が示され、さらに、禁煙外来における直接の対面診療の必要性については柔軟に取り扱ってもよい旨が示されました。
その後、厚生労働省から、平成30年3月に、「オンライン診療の適切な実施に関する指針」が示され、オンライン診療とは、「遠隔診療のうち、医師-患者間において、情報通信機器を通じて、患者の診察及び診断を行い診断結果の伝達や処方等の診療行為を、リアルタイムにより行う行為」とされ、初診については、「かかりつけの医師」が行うことが原則とされ、また、一定の要件を満たす必要があるものの、離島、へき地の患者であるとか、慢性期疾患の病状が安定している患者等に限らず、オンライン診療が認められ得ることになりました。
さらに、令和2年4月10日付「新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いについて」等で、時限的・特例的な取扱いではありますが、新型コロナウイルス感染症が収束するまでの間、「初診から電話や情報通信機器を用いた診療により診断や処方をして差し支えないこと。」等とされました。
以上のことから、オンライン診療は、現在、新型コロナウイルス感染症の拡大している状況下において、時限的かつ特例的に取扱いが拡大されていますが、その有用性が高いことやオンライン診療のアプリも多数開発されていること等から、収束後においても、その社会的なニーズや期待は高まっていくものと思われます。そのため、積極的な活用や検討が病院やクリニックに対して期待されているものと思われます。
山口 明
日本橋中央法律事務所
弁護士
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