主観的な願望の実現のために行われる「美容整形手術」
美容整形は、病気の治療や予防を目的とするものではなく、患者の主観的な願望の実現のために行われる点に特徴があります。
そのため、美容整形医師に要求される法的な説明義務は、「通常の医療行為における医師の説明義務と異なるのか」「異なるとして、どの程度のものが求められるのか」という点が問題となります。
通常の医療での「説明すべき範囲」とは?
この点、通常の医療(医学的な必要性及び緊急性がある事例)の場合は、
と判示したものがあります。また、
と判示したものもあります。
通常の医療行為より、高度な説明義務が求められる理由
◆患者が施術について熟考できるだけの「材料」の提供が必要
しかし、美容整形医療は、医学的な必要性・緊急性に乏しく、また、患者の主観的な願望の実現のために行われるという特徴があるため、医師には、通常の医療の場合より高度な説明義務があると解されます。なお、
「医師が説明すべき事項は、一般的には、①疾患についての診断、②実施予定手術の内容、③手術に付随する危険性の三項目であるが、緊急性の低い場合には、右のほかに、④患者の現症状と原因、⑤実施予定手術の効果、⑥手術をしない場合の予後内容、⑦危険が発生した場合の対処方法などについても説明すべきであると解されている」(判例タイムズ877頁261頁)
といった見解もあります。
◆患者の誤解・過度の期待を解消する、十分な説明が必要
具体的な事例として、例えば、東京地裁平成17年11月24日は、
と判示しています。
また、東京地裁平成7年7月28日判決は、被告医院が独自の手術手法の宣伝記事で楽観的な記述をしている事案において、
「被告は、原告に対し、宣言記事には載っていない治療効果や危険性について、患者の誤解や過度の期待を解消するような十分な説明を行うべきである」
とも判示しています。
このような事案においては、
とする見解もあります。
説明義務違反があった場合、賠償責任を負う可能性も!
そして、上述のような説明義務違反があった場合、仮に適切な説明がされていれば、患者が当該美容整形医療を受けなかったと思われる場合には、これによって生じた損害について賠償する責任を負う可能性があります。
また、不適切な説明を受けたために、自己決定権を行使する機会を得られないままその施術を受けたと認められる場合には、自己決定権侵害による損害(慰謝料等)を賠償する責任を負う可能性もあります。
なお、東京地裁平成24年9月20日判決は、患者が、本件手術の危険性について適切な説明を受けたとしても、原告が本件手術を受けなかった高度の蓋然性は認められないと認定しながらも、患者の自己決定権侵害があったものとして、その範囲で損害を認めたものがあります。
美容整形を行っている医師においては、通常医療よりも、なお一層慎重な説明義務があるものと認識し、対応していくことが必要だといえるでしょう。
山口 明
日本橋中央法律事務所
弁護士
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