(※写真はイメージです/PIXTA)

近年、一般の人たちの間にも浸透しつつある「美容整形手術」。しかし一方で、手術の結果に不満を持つ患者とのトラブルも多く、この領域を手掛ける医師にとっては頭の痛い問題です。ここでは、美容整形における「医師の説明義務」について見ていきましょう。日本橋中央法律事務所の山口明弁護士が法的目線から平易に解説します。

主観的な願望の実現のために行われる「美容整形手術」

美容整形は、病気の治療や予防を目的とするものではなく、患者の主観的な願望の実現のために行われる点に特徴があります。

 

そのため、美容整形医師に要求される法的な説明義務は、「通常の医療行為における医師の説明義務と異なるのか」「異なるとして、どの程度のものが求められるのか」という点が問題となります。

通常の医療での「説明すべき範囲」とは?

この点、通常の医療(医学的な必要性及び緊急性がある事例)の場合は、

 

「右手術の内容及びこれに伴う危険性を患者又はその法定代理人に対して説明する義務があるが、そのほかに、患者の現症状とその原因、手術による改善の程度、手術をしない場合の具体的予後内容、危険性について不確定要素がある場合にはその基礎となる症状把握の程度、その要素が発現した場合の対処の準備状況等についてまで説明する義務はない」(最高裁昭和56年6月19日判決)

 

と判示したものがあります。また、

 

「当該疾患の診断(病名と病状)、実施予定の手術の内容、手術に付随する危険性、他に選択可能な治療方法があれば、その内容と利害得失、予後などについて説明すべき義務がある」(最高裁平成13年11月27日判決)

 

と判示したものもあります。

通常の医療行為より、高度な説明義務が求められる理由

◆患者が施術について熟考できるだけの「材料」の提供が必要

しかし、美容整形医療は、医学的な必要性・緊急性に乏しく、また、患者の主観的な願望の実現のために行われるという特徴があるため、医師には、通常の医療の場合より高度な説明義務があると解されます。なお、

 

「美容整形医療については・・・患者に対し、施術に関して重要な情報を与え、施術を受けるかどうかの判断をできるようにするべく、事案に応じて相応な時間をかけ、了解可能かつ十分な説明を尽くすことが求められるというべきである。」(上田元和「美容整形医療をめぐる諸問題」(最新裁判実務大系2 医療訴訟)578頁)

 

「医師が説明すべき事項は、一般的には、①疾患についての診断、②実施予定手術の内容、③手術に付随する危険性の三項目であるが、緊急性の低い場合には、右のほかに、④患者の現症状と原因、⑤実施予定手術の効果、⑥手術をしない場合の予後内容、⑦危険が発生した場合の対処方法などについても説明すべきであると解されている」(判例タイムズ877頁261頁)

 

といった見解もあります。

 

◆患者の誤解・過度の期待を解消する、十分な説明が必要

具体的な事例として、例えば、東京地裁平成17年11月24日は、

 

「一般に、美容整形外科手術は、疾病や外傷に対する治療のための手術に比べて、その医療上の必要性や緊急性が乏しい上、患者の主観的評価に左右されるような美容効果の達成を目的とするため、整形後の結果に目を奪われがちとなるから、手術を担当する医師は、患者に対して、手術の欠点や危険性についても十分に説明すべき義務を負っているというべきであり、とりわけ患者に誤解や過度の期待がある場合には、それを解消させる必要があるし、手術によっても患者の目的を達成できないおそれがある場合には、そのことを明確に説明して、それでもなお患者がその手術を受ける意思を維持するかどうかを慎重に確認しなければならない」

 

と判示しています。

 

また、東京地裁平成7年7月28日判決は、被告医院が独自の手術手法の宣伝記事で楽観的な記述をしている事案において、

 

「被告は、原告に対し、宣言記事には載っていない治療効果や危険性について、患者の誤解や過度の期待を解消するような十分な説明を行うべきである」

 

とも判示しています。

 

このような事案においては、

 

「診療契約の締結に先立ち、医院がした宣伝等によって患者に誤解や過度の期待を生じさせたとすれば、このような宣伝等(先行行為)によって生じた誤解等を解消すべき義務が信義則上生じるものと思われる。」(前述上田・581頁)

 

とする見解もあります。

説明義務違反があった場合、賠償責任を負う可能性も!

そして、上述のような説明義務違反があった場合、仮に適切な説明がされていれば、患者が当該美容整形医療を受けなかったと思われる場合には、これによって生じた損害について賠償する責任を負う可能性があります。

 

また、不適切な説明を受けたために、自己決定権を行使する機会を得られないままその施術を受けたと認められる場合には、自己決定権侵害による損害(慰謝料等)を賠償する責任を負う可能性もあります。

 

なお、東京地裁平成24年9月20日判決は、患者が、本件手術の危険性について適切な説明を受けたとしても、原告が本件手術を受けなかった高度の蓋然性は認められないと認定しながらも、患者の自己決定権侵害があったものとして、その範囲で損害を認めたものがあります。

 

美容整形を行っている医師においては、通常医療よりも、なお一層慎重な説明義務があるものと認識し、対応していくことが必要だといえるでしょう。

 

 

山口 明
日本橋中央法律事務所
弁護士

 

 

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※本記事は、日本橋中央法律事務所の「note」より転載・再編集したものです。

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