分譲マンションの老朽化問題…配管の修繕等は誰が負担するのか
昭和37(1962)年に区分所有法が制定されて以降、各地で建設され、多くの住まいを提供してきた分譲マンション。分譲マンションはいま、老朽化という大きな問題を抱えています。
老朽化問題は、たとえば「マンションの配管の不具合」といった日常的に起こりうるできごとから始まる場合があります。マンションの配管は建物全体に張り巡らされるため、区分所有建物であれば、不具合のある配管がどこに設置されているのか(=専有部分である居室の内部かどうか)によって、立替えを見据えた修繕等の計画も大きく異なってきます。
もっとも、配管の設置場所が専有部分である居室の内外のいずれにあるかによって、配管の所有者や管理者がただちに決まるものではありません。したがって、配管が専有部分と共用部分のどちらに帰属するかによって、修繕の手続や費用の負担者が変わることになります。
本稿では、最高裁判例等をもとに配管の帰属に関する問題を検討し、建物と配管の構造による比較を試みるとともに、マンション管理組合規約による管理者の明確化を提案します。
「専有部分」と「共用部分」
区分所有権とは、一棟の建物に構造上区分された数個の部分が存在し、当該部分が独立して居住等の役割を持つ場合における、当該部分を目的とする所有権をいいます(区分所有法1条、同法2条1項)。分譲マンションであれば、「区分所有権=各居室の所有権」です。
区分所有権は、建物一棟に複数個存在します。建物の各居室といった区分所有権の目的となる部分は「専有部分」といい(区分所有法2条3項)、それ以外の共用玄関等を「共用部分」といいます(同条4項)。区分所有権も通常の所有権ですから、区分所有権を持つ者(以下「区分所有者」といいます)は、自ら費用を負担して修繕等をすることができます。
一方、共用部分は区分所有者全員の共有に属し(区分所有法11条1項本文)、修繕といった変更および管理も、区分所有者等の集会によって決定されなければ実施することができません(同法17条、18条)。また、その費用は、修繕等によって利益を受けるかどうかにかかわらず、区分所有者全員が一定の割合に応じて負担します(区分所有法19条)。
以上によれば、専有部分であるか共用部分であるかによって、誰が費用を負担してその部分の修繕等を行うべきなのかが決定します。
共用部分とは「専有部分以外の建物の部分、専有部分に属しない建物の附属物等」をいいます(区分所有法2条4項)。ここに規定される「建物の附属物」とは、建物に附合して建物の構成部分となり建物と一体となるものです(『コンメンタール マンション区分所有法[第3版]』17頁)。例としては、電気、ガス、上下水道、冷暖房等の配線・配管設備が挙げられます。
したがって、建物の附属物である配管が共用部分であるかどうかは、「専有部分に属しないといえるかどうか」によって決まります。たとえ配管が居室内部から見えなくても、配管が専有部分であるとされ、区分所有権者が費用を負担してその修繕等をすべき場合があります。
排水管の帰属に関する判例(平成12年最判)
(1)事案:2つの階の間を通る「スラブ下配管〔天井配管〕」で水漏れ発生
分譲マンションの707号室(以下「A号室」といいます)の下階に位置する607号室(以下「B号室」といいます)において、天井から水漏れが発生しました。水漏れの原因を調査したところ、A号室とB号室の排水を共用部分である本管に流す枝管(以下「本件配管」といいます)に原因があると判明しました。もっとも、原因のある本件配管は、A号室の床下にある躯体部分とB号室の天井板の間の空間に設置されていました。
本件配管の修理費用を負担したのは、A号室を所有する区分所有者Xです。そのためXは、B号室の所有者・占有者および管理組合に対して、以下のことを求めました。
・本件配管が共用部分であることの確認
・Xには水漏れによる損害賠償義務がないことの確認
・(管理組合に対し)Xが負担した修理費用の賠償
主要な争点は、本件配管が共用部分に帰属するかどうかであると整理することができます。
(2)判示事項(最判平成12年3月21日判時1715号20頁)
最高裁は、本件配管が共用部分に該当すると判示した原審の判断を是認しました(以下、上記判例を「平成12年最判」といいます)。
「1 本件建物の707号室の台所、洗面所、風呂、便所から出る汚水については、同室の床下にあるいわゆる躯体部分であるコンクリートスラブを貫通してその階下にある607号室の天井裏に配された枝管を通じて、共用部分である本管(縦管)に流される構造となっているところ、本件排水管は、右枝管のうち、右コンクリートスラブと607号室の天井板との間の空間に配された部分である。
2 本件排水管には、本管に合流する直前で708号室の便所から出る汚水を流す枝管が接続されており、707号室及び708号室以外の部屋からの汚水は流れ込んでいない。
3 本件排水管は、右コンクリートスラブの下にあるため、707号室及び708号室から本件排水管の点検、修理を行うことは不可能であり、607号室からその天井板の裏に入ってこれを実施するほか方法はない。
右事実関係の下においては、本件排水管は、その構造及び設置場所に照らし、建物の区分所有等に関する法律2条4項にいう専有部分に属しない建物の附属物に当たり、かつ、区分所有者全員の共用部分に当たると解するのが相当である。これと同旨の原審の判断は正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。」
平成12年最判の判断方法
最高裁は、本件事案の事実関係のもと、「その構造及び設置場所に照らし」本件配管が共用部分であることを判示しました。判旨は、①本件配管の位置(1の部分)、②本件配管を使用することとなる区分所有者の範囲(2の部分)、③本件配管の修繕等の態様(3の部分)に着目しています。
学説では、平成12年最判の上記の要素のうち、構造上の特徴(①)およびそれゆえに生じる事情(③)が重視されたと指摘するものがあります(『別冊ジュリスト259号』7頁、石綿はる美)。これを踏まえて、最高裁は、配管のうち、「区分所有者が他人の専有部分に立ち入ることなく修繕等することができる部分」と「それ以外の部分」を区別し、前者を専有部分、後者を共用部分と判断したと考えられます。
このような判断方法によれば、専有部分=「“区分所有者の支配下にある部分”と評価できる部分をさすもの」といえます。
学説には、排水管について、①本管共用部分・枝管専有部分説、②修正説、③排水管共用部分説などがあります。
①本管共用部分・枝管専有部分説……本管は共用部分であるものの、本管から分岐して各居室に通ずる枝管は専有部分に属するという見解(『注釈民法(7)』364頁)。
②修正説……原則として本管は共用部分、専有部分の専用に供されている枝管は専有部分に属するが、専有部分の専用に供されていても、専有部分の内部に存在しないものについては共用部分であるという見解(『コンメンタール マンション区分所有法[第3版]』17頁)。
③排水管共用部分説……排水管は、機能の共同性および共同管理の効率性から、一般に共用部分に当たると解する見解。
最高裁は、少なくとも本件事案において、いずれの見解とも異なる判断を示しました。もっとも、最高裁の判断方法を踏襲すると評価することができる2つの下級審裁判例があります。
・ガス管に関する下級審裁判例(東京地判平成29年)
・排水管に関する下級審裁判例(福岡高判平成12年、スラブ上配管〔床下配管〕の事案)
順番に見ていきましょう。
ガス管に関する下級審裁判例(東京地判平成29年)
ア 判示事項
前記の平成12年最判を引用しつつ、ガス管が専有部分に該当すると判断した裁判例があります(東京地判平成29年12月20日・平28(レ)983号)。
東京地判平成29年によれば、当該ガス管は以下のように判示されています。
「被控訴人専有部分以外の専有部分にガスを供給するガス管とは繋がっておらず、被控訴人専有部分の専用に供される構造となっている。
また、……【本件ガス管は、共用部分である本件室の内にあるものの、】……、本件室はガス管とガスメーターが複数設置されている場所であり、被控訴人において、本件ガス管の点検及び修理を行うことができると認められる(被控訴人が主張する本件ガス管の補修工事を実施するために本件室に通ずる壁に穴を空ける必要があるとの事情があるとしても、工事内容につき控訴人と調整することにより対処することができる事項であり、……本件工事でもそのような調整がされていることがうかがわれるので、この事情から、被控訴人が本件ガス管の修理を行うことができることを否定するものということはできない。)。
これらの構造及び設置場所に照らすと、本件ガス管は、共用部分に当たるということはできない。」
(※【 】は筆者。なお「本件室」は、「区分所有法2条4項所定の共用部分であるガスメーター室」と定義されています。そして、「ガス管が共用部分に当たるかどうかは、上記のとおり、設置場所のみならず、その構造に照らして判断すべきものである」とも判示しています。)
イ 判断方法
上記の東京地判平成29年は、①本件ガス管の位置、②本件ガス管を使用することとなる区分所有者の範囲、③本件ガス管の修繕等の態様に着目しており、本件ガス管の修繕等が他人の専有部分への立入りを伴わない態様で行うことができるという要素から、本件ガス管が専有部分であると判断しました。これは、平成12年最判と同様の判断です。
また、区分所有者が本件ガス管の修繕等をするにあたって、共用部分である壁に穴を開けるといった方法が必要であるため、自己の専有部分の範囲を超えて工事を行うこととなりました。当該事情が、自己の専有部分における修繕等という範囲を超えていることを基礎づけるかどうかが問題となったものの、管理組合等との協議により対処できる事項であることや、実際に調整が実施されていることを指摘して、区分所有者による本件ガス管の修繕等の可能性を肯定しています。
したがって、東京地判平成29年は、平成12年最判の判断枠組みを採用しつつも、本件ガス管の修繕等の可能性をより具体的に判断したものと評価することができます。
排水管に関する下級審裁判例(福岡高判平成12年)
裁判例には、前記の平成12年最判ののち、排水管が専有部分に該当すると判断したものがあります(福岡高判平成12年12月27日判タ1085号257頁)。
福岡高判平成12年は、居室の床とスラブの間の空間に存在する排水管を専有部分と判断した判例です。前記の平成12年最判の考え方に照らせば、本件で争いとなった排水管は、区分所有者が他人の専有部分に立ち入ることなく修繕等することができる部分であるから、専有部分であると判断されたと理解することができます。
また、上記の福岡高判平成12年は、マンション管理規約の内容や改正経緯にも注目し、以下のように判示しています。
紛争回避のために、マンション管理組合規約で明確にしておく
上記の判例および各裁判例によれば、排水管やガス管については、区分所有者の支配下にある部分が専有部分であると判断されます。また、区分所有者の支配を判断するにあたり、①配管の位置、②配管を使用することとなる区分所有者の範囲、③(具体的な)配管の修繕等の態様が総合的に考慮されます。
分譲マンションにはいくつもの配管が存在し、その配管の位置等(①)によって、区分所有者による修繕等の方法が異なります(③)。
上記のように、配管が共用部分であるかどうかによって、その管理をすべき者が、区分所有者全員(マンション管理団体〔区分所有法3条〕)であるか、特定の区分所有者であるかが決定されます。
以上のことから、管理規約に何かしらの規定もない場合には、設置場所や構造に照らして、専有部分に該当する配管であるか、共用部分に該当する配管であるかを解釈しなければなりませんが、このような解釈の違いによる紛争の長期化は望ましくありません。
建物の管理に関する区分所有者相互間の事項として、規約を定めることができる(区分所有法30条1項)のですから、管理組合があらかじめ管理すべき者を決定し、規約で明確にしておくことが望ましいと考えられます。
山口 明
日本橋中央法律事務所
弁護士
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