(※写真はイメージです/PIXTA)

債権回収にあたり、債務者または物上保証人との間で「約定担保権(譲渡担保又は質権等)」を設定したあとに、当該担保権に係る財産権を侵害するような行為が行われることがあります。この場合、担保価値維持義務違反が成立するのか。また、だれに対してどのような請求をすることができるのか。質権設定者の破産管財人の義務を判断した「最高裁H18.12.21判決」を踏まえ、日本橋中央法律事務所の山口明弁護士が解説します。

最高裁平成18年12月21日判決、担保価値維持義務の存在を明示

まず、最高裁平成18年12月21日判決によると、

 

「債権が質権の目的とされた場合において、質権設定者は、質権者に対し、当該債権の担保価値を維持すべき義務を負い、債権の放棄、免除、相殺、更改等当該債権を消滅、変更させる一切の行為その他当該債権の担保価値を害するような行為を行うことは、同義務に違反して許されないと解すべきである。」

 

と判示し、明確に担保価値維持義務が存在することを認めています。

 

具体的な行為として、債権の放棄、免除、相殺、更改等の債権を消滅、変更させる一切の行為が挙げられていますが、それ以外にも、債権の担保価値を害するような行為を行うことが担保価値維持義務違反となると認めています。

 

そのうえで、具体的なあてはめにおいても、上記判決で対象となった行為について、

 

「特段の事情がない限り、正当な理由に基づくものとはいえない」

 

と結論づけ、債務者側の賠償責任を認めています。

 

そして、上記最高裁判決の調査官解説(最高裁判所判例解説 民事編平成18年度(下)1349頁以下)においても、

 

「債権質権者及び第三債務者が質権者に負う義務については、明文の規定はないものの、民法481条1項や民事執行法145条1項の類推適用により、①質権者設定者は、質権者のために目的債権を健全に維持すべき義務(以下、この義務を『担保価値維持義務』という。)を負い、債権の放棄、免除、他の債務との相殺等質入れ債権を消滅・変更させる一切の行為は、質権者に対抗できない、②第三債務者は、質権者設定者や目的債権の譲受人に弁済しても質権者に対抗できない、と解されている。」(1366頁)

 

とされています。そのうえで、

 

「金銭債権においては通常は考えにくいが、質権設定者が事実行為によって債権の価値を毀損する行為も、質権者に対する担保価値維持義務に反する行為と評価できよう。」(1367頁)

 

とされています。また、

 

「以上のような担保価値維持義務は担保権設定契約から当然に発生するものであると考えられる。」(1368頁)

 

として、本件においても、担保価値維持義務に類する条項があったものの、質権設定者の担保価値維持義務を確認する趣旨のものにすぎないと考えられるとしています。

 

その前提のもと、担保価値維持義務違反があった場合に誰に対してどのような請求ができるのかについては、

 

「質権の価値を侵害する行為として、質権設定者に故意・過失が認められる限り、質権者に対する不法行為を構成し、質権設定者は上記行為によって回収が不能となった債権額につき損害賠償義務を負うことが考えられる。」(1368頁)

 

としたうえで、

 

「質権設定者が債務者以外の者である場合(物上保証の場合)には、質権設定者の損害賠償義務を認めることは、質権者にとって大きな意味を有することになる。」(1369頁)

 

としています。

 

そのため、担保価値維持義務違反により、質権設定者に対する損害賠償義務が発生することになり、質権設定者である債務者または物上保証人に対する一般責任財産を追及できることになります。

 

なお、上記最高裁判決については、

 

「あくまで約定担保権である債権質に関するものであって、例えば、動産先取特権のような法定担保権にその射程が及ぶものではない。」(1372頁)

 

としています。

約定担保権の設定で担保価値維持義務が発生するのは「必然」

以上のことから、約定担保権を設定した場合は、当該設定行為から当然に担保価値維持義務が発生するものと解されます。

 

また、担保設定契約書中のコベナンツ(遵守事項)等にて、具体的に担保価値維持義務違反となる行為や効果(違反した場合の賠償金額等)を明確に定めておくことで、債務者および物上保証人に対する行為規範として、より明確かつ確実に機能することが期待できるといえるでしょう。

 

なお、集合債権譲渡担保の毀損行為による担保価値維持義務違反については、拙著『ABLの法律実務』(日本評論社)76ページ以下にも詳細に記載していますので、参照してください。

 

 

山口 明
日本橋中央法律事務所
弁護士

 

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※本記事は、日本橋中央法律事務所の「note」より転載・再編集したものです。

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