――インボイス制度が始まったら、インボイスが発行できない免税事業者に「消費税分10%値下げしてください」って言おうと思っていたんですけど、それはダメなんですか?
板山翔税理士:「価格交渉をすること自体は問題ありませんが、一方的な値下げや取引停止は優越的地位の濫用として、独占禁止法上問題となるおそれがあります。現実的な価格交渉の方法3パターンについて解説しますね。」
値下げは当然?免税事業者は「ズルい」のか
先日40名ぐらいの経営者の前で、インボイス制度に関するセミナーの講義をさせていただく機会がありました。
セミナー後に課税事業者の方から、「相手が免税事業者だったら消費税分10%値下げしてくれって言おうと思っていたのに、そんな単純な話じゃなかったんですね…。」といった感想をいただきました。
そうなんです、一方的な値下げや、従わなければ取引停止とする行為は、優越的地位の濫用として、独占禁止法上問題となるおそれがあります。
「消費税を納めていない免税事業者が消費税分10%を請求していること自体がおかしかったわけだし、10%値下げさせて何が悪いの?」と思われる方も多いと思います。
でも前提として知っておいて欲しいのが、免税事業者は今まで不当に消費税分10%の売上を懐に入れていたわけではありません。
たしかに免税事業者が請求書に消費税分10%を別表示することは、消費税法上は合理的ではないかもしれませんが、別表示を禁止する法律もなかったので、法律上はまったく問題ない行為です。
たまに消費税を納めていないこと自体がダメだとかズルいとか言う人もいますが、国が定めた法律で免税になっているのでこの指摘は論外です。収入が少なくて所得税がかからない人はズルいとか、大企業より納税額が少ない中小企業はズルいとか言っているのと同じレベルです。
また、免税事業者は売上から消費税を納めなくていい一方で、仕入や経費を支払う時の消費税分10%も仕入税額控除が受けられない、つまり仕入負担が課税事業者より10%重い状態です。したがって売値の設定の時も課税事業者より10%ほど多く受け取らないと割に合わないという状況にあるため、売上の10%丸儲けしているわけでもありません。
さらに、支払う側としても消費税分10%を別表示してもらった方がわかりやすいこともあり、請求書発行システムも消費税を別表示するように作られていることがほとんどで、これまで商慣習として、免税事業者であっても消費税分10%を別表記するのが一般的でした。
そんな中、今まで10%不当に受け取っていたのだから、10%値下げすべきだと主張するのは合理的ではなく、逆に独占禁止法上問題になるおそれがあります。
現実的な価格交渉の方法とは
とはいえ課税事業者からすると、インボイス制度が始まれば、今まで受けられていた消費税分10%の仕入税額控除が受けられなくなるため、負担が重くなるのは事実ですし、値引き交渉すること自体は全く問題ありません。
では何%値引きしてくれと交渉すればよいのかですが、インボイス制度が始まる令和5年10月1から3年間、令和8年9月30日までは、免税事業者に対して経費を支払っても、まだ80%の仕入税額控除が受けられる、つまり消費税分8%(消費税分10%×80%)の仕入税額控除が受けられることを考えると、実質損をするのは消費税分2%程度です。
そこで、現実的な価格交渉の方法としては、次の3パターンが考えられます。
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<価格交渉3パターン>
①価格は据え置く(110%請求のまま)代わりに他の部分で優遇してもらう
②2%値下げ(108%請求)してもらうよう交渉する
③間をとって1%値下げ(109%請求)で交渉する
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これまで110%請求(本体価格100%、消費税分10%)されていたとして、そのままの価格で据え置いて2%の損失を自社で負担するのか、2%値下げ(108%請求)してもらって免税事業者に負担してもらうのか、1%値下げ(109%請求)してもらい1%ずつ負担するのか、この3パターンが選択肢として挙げられます。
全ての支払先と価格交渉するのは現実的ではありませんし、支払先との関係や支払金額によって、どのパターンで交渉するのかを考えましょう。
支払金額が小さければ価格交渉するのも面倒なので価格は据え置いてもいいかもしれませんし、逆に支払金額が大きければ、2%の損失でも痛手なので、値下げ交渉も検討すべきでしょう。
2%でも強制的に値下げをしたり取引停止をちらつかせたりすると優越的地位の濫用とみられてしまうおそれもあるので、きちんと交渉して納得してもらった上で値下げしてもらいましょう。
2%の値下げ交渉が難しければ、間を取って1%の値下げで折り合いをつけるとか、価格は据え置く代わりに追加サービスをつけてもらうなど他の部分で優遇してもらうのも1つです。
いずれにせよ複雑で面倒なインボイス制度ですが、これを機に取引条件を見直して、少しでも経営にプラスの影響が与えられるように頑張りましょう(ちょっと雑にまとめました 笑)。
板山 翔
板山翔税理士事務所 代表、税理士
おそらく日本初の「オンライン専門の税理士事務所」の創設者。自社の事業を「税理士業」ではなく、「経営に必要な情報をオンラインで提供する事業」と捉え、経営戦略コンサルタントとしても活動している。従業員5名以下の小さな会社の経営者を中心に、「小さな会社だからこそできる差別化戦略」の立て方や、「短期間で売上アップするためのマーケティング戦略」、「長期的に資産を形成していくための財務戦略」などを教えている。
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