健康管理だけで社員の生産性は違う
社員の健康管理の医療面の目的は病気やけがをする人をできる限りゼロにすることです。ただ病名のつくような病気や大きいけががなければいいのかというと、決してそうではありません。
社員がけがや病気のために遅刻・早退や休業をすることは会社にとっても社員にとっても損失です。産業保健の用語でいうと、遅刻・早退や休業による生産性の損失を「アブセンティーイズム」といいます。このような休業や休職・離職を防ぐために職場の健康づくりを考えている経営者も少なくないと思います。
けれども休業による損失よりもはるかに大きい損失となっているのが「プレゼンティーイズム」です。プレゼンティーイズムとは、職場で働いてはいるものの何らかの不調や症状を抱えていて労働生産性が低下している状態です。
働いている人であれば、睡眠不足や疲労で頭が働かない、集中力が続かない、なんだかやる気が起こらない、そんな経験があると思います。頭痛や肩こり、腰痛、関節痛などもそうです。どんな人でも痛みや不調があるとその人本来の力を100%発揮することはできません。さらに健康に不安があるのに仕事を休めないという状況が続くと、ストレスが高まり、生産性も働く意欲もどんどん低下してしまいます。
健康関連を原因とする会社の損失を調べた経済産業省の調査では、会社負担の医療費(健康保険料)や傷病手当金などの手当の負担は17.6%に過ぎません。アブセンティーイズムによる損失はわずか4・4%です。それに対して、相対的プレゼンティーイズムによる損失は、77.9%に上っています。社員が何らかの不調や健康不安を抱えているだけで、会社にとって大きな損失になっているのです。
逆にいえば、社員の健康管理や健康保持・増進に取り組んでプレゼンティーイズムを減らすだけで、想像している以上のメリットが得られるということです。
プレゼンティーイズムに悪影響を与える因子としては、高血圧や高血糖、肥満、運動不足、ストレスなどがあります。
例えば昼食後などに仕事中に眠くなってしまう人は少なくないと思います。そういう人は境界型糖尿病(糖尿病ではないものの、その予備軍)の可能性があり、食後に血糖値の急上昇と急降下が起こるために、強い眠気が生じていることも考えられます。
あるいは肥満の人で睡眠時無呼吸症候群があると、睡眠時間はしっかり7~8時間確保していても、睡眠中に呼吸が止まっている瞬間があることで熟睡できず、日中に強い眠気が生じるようになります。特に仕事で車の運転をする人では、こうした症状があると重大事故につながりかねません。
定期健康診断でわかる血圧や血糖値、脂質、肥満などの数値を良くしていくことは、このようなプレゼンティーイズムによる損失を減らすことに直結します。そして健康に自信をもって働ける、不調や病気になったときも体調管理をしながら安心して働ける職場になれば、社員も本来の力を発揮して働くことができ、生活や人生の充実にもつながります。
最近調子がいい、体が軽いな、仕事は大変でも職場に行くと元気が出る(社員がそういう気分で働いている会社と、辛い、だるい、眠い、しんどい、会社に行きたくない)と社員が思っている会社では社員が発揮する力も、仕事の成果もまったく違ったものになります。
富田 崇由
セイルズ産業医事務所
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