43.7%は「社員の健康管理は何もやっていない」
■小さな会社で「職場の健康づくり」をどのように進めるか
小さな会社では健康づくりを進めたいという気持ちはあってもそこから具体的な実践につなげていくのが難しいことがよくあります。経営者はもちろん社員一人ひとりが本来の業務で多忙であり、必ずしも健康経営や産業保健について詳しい人がいるわけではないからです。
私が代表を務める産業医事務所で2021年6月に従業員数50人未満の小規模事業所を対象にアンケート調査を行っています(回答:1024人/経営者516人、従業員508人)。
小規模事業所の経営者に「会社は従業員の健康管理の一環として具体的にどのようなことを行っていますか?(複数回答可)」と尋ねたところ、最も多かったのは「特に何もやっていない」で43.7%。回答した会社の4割以上は、特に社員の健康管理の対策を行っていないという結果でした。
一方で、何かしらの取り組みをしている会社は半数以上ありました。具体的な対策の内容は「ストレスチェックを行う(25.4%)」「労働時間の見直し(21.9%)」「福利厚生の充実(21.9%)」「産業医の配置(19.9%)」「相談窓口の設置(17.8%)」といったものでした。
複数回答可なので、これらのうち複数の取り組みをしている会社もあるわけですが、会社によって健康づくりを意識して進めているところと、そうでないところに分かれている印象です。
また同アンケートで「従業員の健康管理に対する経営者の課題は何だと思いますか?」という質問に対しては「専門知識をもつ人が周りにいない(38.0%)」という回答が最も多くなりました。続いて「従業員の健康状態が経営者まで伝わらない(29.7%)」「従業員の健康管理に時間が割けない(22.5%)」となっています。
社員の健康管理や健康保持・増進について相談できる人がいない、社内で健康状態などについて情報共有をするしくみがない、健康管理について考える時間がない。そんな小規模事業所の実情がアンケート結果にも浮かび上がっています。
■従業員の健康管理をするメリットは、想像以上に大きい
小さな会社で健康管理が進まない理由は人手がない、時間がないという物理的な問題だけではないように思います。最大の理由は「健康管理をすると何がいいのか」という会社にとっての意義、従業員にとっての意義がきちんと伝わっていないことではないかと思います。
先のアンケートでも小規模事業所の経営者に「従業員の健康管理は会社にどのようなメリットを与えると思いますか?(複数回答可)」という質問をしています。
経営者のみなさんからは「安定した経営(53.1%)」「生産性の向上(50.4%)」「従業員の定着率の向上(39.7%)」「高品質なサービスの提供(31.0%)」「企業のイメージアップ(16.3%)」といった回答が寄せられましたが、最も多い回答でも50%を少し上回る程度です。残り半数の経営者には、まだ社員の健康管理をすることのメリットが伝わっていないのかもしれません。