インボイス制度の本質は「弱いものいじめ」
以上が、消費税およびインボイス制度の概要です。
免税事業者はインボイスを発行できません。その結果、免税事業者と取引する相手方の事業者は、インボイスを受け取れず、みずからが納税すべき消費税額の計算において「仕入税額控除」を行うことができないのです。
そうなると、免税事業者の相手方で「仕入税額控除」を行っている事業者は、以下のいずれかを選ぶ可能性が高いといえます。
・免税事業者との取引をやめる
・免税事業者に対して消費税相当額の値引きを要求する
これにより、免税事業者は大きな不利益を被ることになります。回避するには、あえて「課税事業者」になるしかありません。その結果、以下の3重の不利益を被ることになります。
【課税事業者に転換することによる3つの不利益】
・消費税の納税義務を負う
・消費税の計算の手間・コストがかかる
・インボイス発行の手間・コストがかかる
免税事業者の多くを占めるのは零細の個人事業主・フリーランスです。これらの事業者に特に大きな不利益を与えるため、「弱いものいじめ」だとされているのです。
「益税」叩きの理不尽
この点について、「インボイス制度は、これまで中小事業者が『益税』の特権を受けていたのを是正する制度であり正当」という論調がみられます。
しかし、この「益税叩き」は理不尽かつ不公正なものです。
既に述べた通り、事業者が商品・サービスの価格を決める際に消費税相当額を転嫁するかどうかは、自己責任により「決めさせられている」というものにすぎません。
また、中小事業者のなかでも零細事業者は、価格交渉において不利な立場にあり、「本来の適正な商品・サービスの価格」に「消費税相当額」を「上乗せする」という価格の決め方がどこまで可能なのか、大いに疑問があります。
ましてや、免税事業者はそもそも消費税の納税義務を負っていないため、価格に転嫁しないのはごく自然なことです(形式上「転嫁」しているケースもあるであろうことは当然の前提です)。
なお、この点について、「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法」という法律が一応は存在します。
しかし、上述したような実情の下では、「税込み価格」か「税抜価格」かという形式論・建前はあまり意味を持ちません。
しかも、免税事業者も仕入れの段階では消費税を支払っています。これについては「仕入税額控除」のような制度がありません。したがって、以下の実態が浮かび上がります。
・消費税相当額を価格転嫁できているか疑わしい
・仕入れにかかる消費税相当額の負担を負っている
これのどこが「益税」なのか、大いに疑問があります。
また、現行制度上、「益税」は「免税事業者の相手方」にも観念できます(なお、あくまでも制度の構造上観念できるということであり、「善悪」の問題とは一応区別して考える必要があります)。
どういうことかというと、まず、免税事業者の取引先が「仕入税額控除」を行うケースについて指摘します。
免税事業者が事実上消費税相当額を価格転嫁できていないのに形式上は「税込み価格」となっている場合、取引先が行う「仕入税額控除」は実質的に「益税」といわざるをえません。
次に、免税事業者の取引先が消費税の計算上「簡易課税制度」を利用する場合について指摘します。
「簡易課税制度」は年間売上高5,000万円以下の事業者に認められている簡便な計算方法です。売上に係る消費税相当額のうち一定割合を納税するという方法です。
この「簡易課税制度」を用いる場合、「消費税相当額を価格転嫁していない免税事業者」との取引についても自動的に一定額が控除されることになります。これも実質的には「益税」といわざるをえません。
このように、消費税の制度の構造上、他の場面でも「益税」が観念できます。そうであるにもかかわらず、免税事業者の実態すら疑わしい「益税」だけをことさら取り上げて「益税」と批判することは、きわめて悪質な印象操作であり、「弱いものいじめ」であることが明白です。