巨大企業の「益税」も?その真偽は?
同様に実質的に考えると、もう一つ、消費税についてはさらに大きな「益税」が観念できる可能性があります。それは、海外に輸出する企業に対し一定の要件の下認められる「輸出取引の免税」というものです。俗に「輸出戻し税」とよばれることがあります。
これは、商品等を海外に輸出した場合の売上について消費税を非課税とするものです。その理由は、最終的に消費される場合は、「国内での消費」ではなく、消費税の課税対象にあたらないからです。
「輸出取引の免税」を受けている企業は、輸出して「売上」を得る際に消費税相当額を受け取ることがありません。これに対し、「仕入れ」の際には消費税相当額を支払っています。
これだと、理論上、仕入の際に支払った消費税相当額は「払い損」になってしまいます。そこで、その分について、「輸出許可証」等の書類の保管等、一定の厳格な要件をみたした場合に「還付」を受けられることが認められています。
しかし、この計算の際に、その企業が下請け(特に免税事業者を含む中小企業)との取引において、もし消費税相当額を支払っていない(あるいは、名目上「税込価格」であっても実質上は消費税相当額が価格転嫁されていない)のであれば、その分の還付額は「益税」ということになります。
上述したように、免税事業者を含めた中小企業は、特に大企業との価格交渉において、実質的な意味で消費税相当額を価格転嫁するのが困難であるという実態があります。
そうだとすれば、ここにも制度の構造上「益税」の可能性を観念することができます。その意味でも、零細な事業者である従来の免税事業者の、実態すら疑わしい「益税」のみをことさら取り上げて叩くことは、きわめて不公正・理不尽であるといえます。
なお、「輸出取引の免税」の制度自体は何らおかしいことではなく、正当なものです。あくまでも、「輸出取引の免税」の制度下において上述のような実質的な意味での「益税」の可能性が観念できるということにすぎません。
また、さらに付言しておくと、「輸出取引の免税」の制度自体について、一部で「政府・財務省が将来消費税をさらに引き上げることによって、輸出大企業が還付を受けられる額を大きくするためのもの」という一種の「陰謀論」のようなものがまことしやかに喧伝されることがあります。
しかし、これはあくまでも憶測ないしは「感想」の域を出ません。また、「輸出取引の免税」はすべての企業が条件さえみたせば等しく適用を受けられる制度であり、悪ではありません。輸出大企業のみを優遇する制度ではありません。本質とかけ離れた議論といわざるを得ません。
繰り返しますが、「輸出取引の免税」も含め、制度上「益税」を観念できる場面が他にも複数あるにもかかわらず、法律上認められた免税事業者のみを狙い撃ちすることこそが、「弱いものいじめ」であるということです。
また、「益税」の問題は、インボイス制度の問題にとどまらず、「益税」の状態が上述のように様々な局面で制度の構造上不可避に発生する消費税という税制自体の問題です。
インボイス制度が「弱いものいじめ」の欠陥ある制度であることは明らかであり、強行されると、従来の免税事業者にとどまらず、国民に対し物心両面で取り返しのつかない荒廃と禍根をもたらすおそれがあります。そうなれば、免税事業者自身だけでなく、大企業にとっても不利益となるのは論をまちません。その意味でも上述のような「陰謀論」に安易に与することは厳に慎まなければなりません。
政府・国会には制度の延期・見直しを含めた再検討が求められるのはいうまでもありませんが、私たち国民も、有権者・納税者として、問題の本質を正確かつ的確に把握することに努めなければなりません。
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