「ウチは常に“他店より安く”。」エブリデイ・ロープライスを実行した老舗デパートの大誤算…無自覚で恐ろしい消費者心理 (※写真はイメージです/PIXTA)

伝統的な経済学では、人はいつでもどこでも合理的であると仮定しますが、現実の私たちは損得計算や行動を間違えることも珍しくありません。税抜価格を表示すると売上が上がったり、200円よりは198円にするなど、キリの悪い数値にした方が割安に感じられたり…。太宰北斗氏の著書『行動経済学ってそういうことだったのか! -世界一やさしい「使える経済学」5つの授業-』(ワニブックス)より一部を抜粋し、「消費者が感じる“お得感”の不思議」を見ていきましょう。

“公平公正な安売り”よりも「割安の興奮」が大事

目に見えていないと税金を計算してくれず、キリがいいかどうかでも評価が違ってしまう。それでも、しっかり伝えれば、さすがに気づいてくれるはずですよね。

 

創業100年の歴史を誇る老舗(しにせ)デパートのJCペニーが取り組んだのは、そうした価格戦略でした。

 

中価格帯での競争を強みにする同社は、伝統的にクーポンやセールを多用してきました。結果、当時は定価での取引が1%にも満たない状況だったと言います。

 

価格競争の激化や、ブランドの棄損を懸念した新任のCEOは、ここである決断をしました。

 

「〇.99ドル」と表記していた価格の端数を撤廃、クーポンの発行も無くす、公正公平な「フェア・アンド・スクエア戦略」を打ち出したのです。

 

目指すのは、いつも魅力的な価格で商品を提供し続けることでした。実際、専門家の調査によると、競合他店よりも安い価格設定を導入できていたと言います。

 

つまり、実質的に消費者が支払う価格は、従来から変わりがないか、むしろ安くなっていたわけです。

 

さて、作戦実行の結果はすぐに四半期決算にも表れます。

 

売上は前年比19%減、来店客中の実購買客比率も低下、1.63億ドルの損失を出す結果となりました。

 

何がいけないのでしょうか?

 

JCペニー側は「計算して(do the mass)」と大きく打ち出した広告なども展開しましたが、その後も業績を回復できませんでした。

 

せっかく値引きをしっかりしたのに、「割安だ」と感じる興奮が、実際の割安さの魅力を上回ってしまうなんて不思議です。

 

その興奮が幻想だとしっかり伝えてもなお、消費者にはなかなか理解できなかったようで、非合理な思考に縛られた消費者の怖さがうかがえるエピソードにも思えます。

 

でも、「エブリデイ・ロープライス」で成功しているチェーン店もありますよね。違いはどこにあるのでしょう。

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    名古屋商科大学 商学部 准教授 

    慶應義塾大学卒業後、消費財メーカー勤務を経て、一橋大学大学院商学研究科博士後期課程修了。一橋大学大学院商学研究科特任講師を経て現職。専門は行動ファイナンス、コーポレートガバナンス。

    第3回アサヒビール最優秀論文賞受賞。論文「競馬とプロスペクト理論:微小確率の過大評価の実証分析」により行動経済学会より表彰を受ける。

    競馬や宝くじ、スポーツなど身近なトピックを交えたり、行動経済学で使われる実験を利用した投資ゲームなどを行ない、多くの学生が関心を持って取り組めるように心がけた授業を行う。

    著者紹介

    連載行動経済学ってそういうことだったのか! -世界一やさしい「使える経済学」の授業-

    ※本連載は、太宰北斗氏の著書『行動経済学ってそういうことだったのか! -世界一やさしい「使える経済学」5つの授業-』(ワニブックス)より一部を抜粋・再編集したものです。

    行動経済学ってそういうことだったのか! -世界一やさしい「使える経済学」5つの授業-

    行動経済学ってそういうことだったのか! -世界一やさしい「使える経済学」5つの授業-

    太宰 北斗

    ワニブックス

    「税抜価格を表示したら売上が上がる!?」 「経済学を学ぶと所得が上がる!?」 「競馬で賭けるなら“本命” “大穴”は外すべき!」 「3割バッターが最終試合を休む理由とは?」etc. “リアルに得する経済学”をおもしろい…

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