家賃の目安も「慣れ」次第
高い価格に注目が行くと、小さな価格差が気にならない。本当かどうか、どうすれば確認できるでしょうか?
ウリ・サイモンソーン氏とジョージ・ローウェンスタイン氏は、アメリカの大都市間を引っ越した928人の家賃等のデータから、このことについて分析しています。
さて、分析当時のピッツバーグでは寝室2つを持つマンションの家賃は654ドルほどらしかったのですが、これは割高でしょうか? 割安でしょうか?
もう、答えはわかりますよね、「それは何と比べるかによる」と。
家賃相場の高いサンフランシスコでは同等の部屋の家賃は2124ドル、家賃相場の低いアラバマ州のある都市では433ドルほどです。
それぞれの都市から、2つの家族がピッツバーグに引っ越してきたとしましょう。彼らはどのように、新居を探し、家賃を選択するでしょう?
分析の結果に見えた傾向は次の2つです。なお、分析では世帯の所得や年齢、家族構成のほか、特定都市の影響など様々な要因を調整した上で、多くの引っ越しの理由が、広い家に住み替えたいなどの住宅関連のものでないことを確認しています。
●家賃相場の高い都市から引っ越してきた人は、転居先でも家賃の高い住居を選びがち(家賃相場の低い都市から来た人は低い家賃を選びがち)
●転居先の都市内で再び引っ越しをするとき、元の都市の相場感は薄れがち
カラクリはわかりますかね。どうやら、多くの人は引っ越し前の都市の相場感に引きずられて、新しい都市での家賃を決めているようなのです。
なんとなく共感できそうな話ですが、何が起きているのでしょうか。
合理的に考えれば、新しい都市での住居の選択は、そこでの選択肢の数々を吟味して決めればいいわけで、もともと住んでいた都市の家賃は関係ありません。新しい都市の中でベストな選択をすることに尽きるわけです。
でも、現実にはそうでもないようなのです。仮にサンフランシスコから来た人たちがピッツバーグの都市の家賃相場を見たとき、まるでバーゲンセールのようだと感じてもおかしくありません。
なぜかというと、今住んでいる住居の家賃が、判断基準としてアンカリング*されてしまっているからです(*アンカリング…目に映った他の情報や、頭の中に残った情報に推論が歪められる効果を指す言葉)。
その結果、まずは高価格で高品質な物件を見ることになります。より高い価格を意識させられているので小さな価格差は気にならず、品質が重視されやすくなっているのではないか、と考えられます。
一方、家賃相場の低い都市から来た人は、その都市の低い相場がアンカリングされているので、低価格で低品質な物件から検討するようになります。
結果、価格差が目立つようになり、できるだけ安い住居を選んでしまう可能性があるわけです。
つまり、アンカリングされた情報次第で、品質か価格か、住宅を探す人が関心を寄せる要素(セイリアントに映る要素)が変わってしまうと考えられます。
分析結果の2つ目の、「再び引っ越しをする際には元の都市の家賃相場の影響が薄れている」という傾向も、転居者がアンカリングされた家賃相場をもとに購買行動を決めてしまいがちなことを示唆します。
つまり、元の都市の家賃相場が簡単に意識できる環境のときには判断基準として影響していたのに、新しい都市に住み慣れるとそちらの家賃相場が参照されていると考えていいわけです。