「損失は絶対イヤ!」の価値判断、プロスペクト理論
「損を避けたはずなのに、結局、損をしてしまう」という変な行動を、どう説明したらいいのでしょうか。
ここで、行動経済学者・カーネマン氏とトヴェルスキー氏が、期待効用理論は現実に即していないとして、代わりに主張した「プロスペクト理論」について紹介しておきましょう。
前回は、「合理的行動の前提になるヒトの認知などの情報処理機能が、いつでも、どこでもしっかり機能するかは怪しい」ということを確認してきました。
プロスペクト理論では、心理学で考えられてきた認知・判断の限界という観点ではなく、「損か得か」「うれしいか悲しいか」という、人の心の満足度の感じ方という観点から「ヒトがどのように物事の価値判断をしているか」、その非合理的な特性を説明していきます。
ポイントは3つ。
●心の満足感(心理的価値)は「水準」ではなく「変化」で決まる
●何かを損する悲しみは、同じものを儲けた際の喜びより大きい
●リスクが好きか嫌いかは、損をしそうかどうかで変わる(損をするならリスクを追求するし、儲けがあるならリスクは避けたい)
なんだかよくわからないかもしれませんが、大まかには、損失が出るのは絶対に嫌だという「損失回避」の特性を言い表しています。
まずは“損失”とは何か、確認をしておきましょう。
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【質問】次の選択肢のうち、どちらがより満足できるでしょうか?
A…あなたは今日、100万円のボーナスをもらいました。でも本当は200万円の予定でした
B…あなたは今日、100万円のボーナスをもらいました。でも本当は50万円の予定でした
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満足できるのは、もちろんBですよね。
200万円の予定が100万円になったのなら、差し引き「100−200=マイナス100万円」。ほとんど誰もがそう考えます。
これが満足感が「水準」ではなく「変化」で決まるという意味です(なお、プロスペクト理論では、心の満足感を「心理的価値」という言葉で言い換えています)。
このとき、心の中でなぜか損得の計算基準となっている金額のことを「参照点」と言います。実際にもらったのは100万円でも、参照点が200万円ならマイナス100万円(つまり損)、参照点が50万円ならプラス50万円(つまり得)と考えるというわけです。
参照点は、予定のボーナス額かもしれませんし、隣の人のボーナス額かもしれません。参照点はお金に限らずなんでもよくて、いずれにせよ、心の満足感に影響しそうな要因の変化を表す際に「基準(0)」になるものを指します。
重要なのは、参照点より減るのだったらなんでもかんでも損失で、「何かを得する喜びは、それを損する悲しみに絶対勝てない」ということです。結果、損が出るのを避けようとする。これが、「損失回避」と呼ばれる特性です。
硬い話はさておき、早速、現実世界のどんなところに「損失回避」が見られるか紹介していきます。