連動ができていないことで起こるイノベーションの失敗
5.対話的アプローチをベースに、人材・組織・新規事業の「三位一体の開発」
経産省等の定義からも、DXはデータとデジタル技術を活用した「イノベーションを創出する営み」といえます。DXと同様に、イノベーションの定義もさまざまですが、「人々の行動変容につながる継続的な営み」であることは共通しています。
人々の行動変容を促す場合、例外なく、その変化の起点となる仕掛ける側(DX担当者)には、先んじての行動変容が要求されます。そしてこの行動変容を「意図的・能動的に仕掛ける」ことがDX推進の要諦であり、決して簡単ではないものの、ビジョンを掲げ、自分自身との対話から始まる多様な対話をチーム内、社会へと繰り広げていくことで、なし得るものであるとお伝えしてきました。
これらは言い換えると、新規事業開発・人材開発・組織開発という3つの開発を三位一体で行う活動です。この三位一体の開発は完全に「新規」事業開発に限らず、さまざまな事業推進・プロジェクト推進に役立てられる考え方ですが、いずれの場合も「新規事業開発」のメソッドを応用することが効果的です。
誤解を恐れず言うと、新規事業開発だけでは動機やスキルが不足し、人材開発だけでは実践が不足し、組織開発だけではベクトルが定まらない、というのが別々に取り組んだ場合に起こりがちですが、三位一体で取り組むことで補完関係が成立し、高いシナジーを発揮するのです。
3つそれぞれの開発は、多くの企業で取り組まれていることではありますが、責任部署や施策が連動していないことも多いものです。変革は「新しいことを始める」だけでなく「新しいやり方で始める」ことでも達成することができるのです。
DX推進担当者がすべきこと、3つ
最後に、「DX等の変革に関わるならこれだけはやって欲しい」3つのことを共有します。これは筆者が自身に言い聞かせ続けていることでもあります。
1.「出ろ」…社内、既存の枠組み、常識の範囲から、意図的に出ること
まずは、社内含め、自らの生活圏や既存の枠組み、あるいは常識の範囲から、意図的に「出ろ」です。人的交流があり、偶然を取り入れながら学び合えるような場へ出ていくことが理想的ですが、ハードルが高いと感じられる場合、最初の一歩は「帰り道にいつもと違うルートで帰ってみる」といったことかもしれません。
私の場合は、ビジネスモデルイノベーション協会などの活動をはじめ、イノベーター同士の交流を重視し、ときに自ら学び合いの場を主催するなどしてアップデートを図っています。自己啓発的に行うのと同時に、チームメンバーもこれらに巻き込むことで対話的に「人のトランスフォーム」たる人材開発を進めています。
2.「行け」…気になる現場や顧客のもとへ行くこと
これはとにかく、あらゆる手段を使いながら、気になる現場や、幸せにしたい顧客のもとへ「行け」です。オンラインよりも格段にオフラインでの現場突入を推奨します。
私はこれまで何度も「宮木さんの部署がなんで顧客訪問ばかりしているのか?」と問われたことがあります。私にとっては事業開発に関わるものとして当然の行動だったのですが、営業組織でも開発組織でもない事業本部の人間が自ら直接、顧客や「顧客の顧客」のもとへ行くことはこれまでの組織慣行からは珍しかったようです。働き方や制度を含め、より多くの方が現場に飛び込んで行けるよう、「組織のトランスフォーム」として対話的に組織開発に取り組んでいます。
3.「やれ」…現場に行くことで得た学びは必ず行動としてやること
現場や顧客から学んだことは、必ずなんらかの構想に結びつけ、どんなに小さなことでも「やれ」です。気づいたことをメンバーと共有するだけでも、それがゼロでない限りなにかに結びつき発展する可能性を秘めています。迷ったらやる。目の前の課題をスルーせずに「ゴミが落ちていたら拾う」行動様式の定着こそが、DX推進者にとって最も大切なことです。
私が2016年に参加した、経産省が主催するイノベーター育成プログラム『始動』のキャッチコピーは「Thinker To Doer」でした。私はいまでも新規事業開発を中心とした新たな挑戦を続けています。
ぜひ皆様もDXのDのみに惑わされず、取り組む人と組織に着目した「ビジョンと対話を起点としたDX」に取り組んでみてください。ここまで述べてきたことがひとつでも、皆様の挑戦のお役に立ちましたら幸いです。
宮木 俊明
コニカミノルタ株式会社
AccurioDX ファウンダー