米下院では100年ぶりの事態も…米国の不透明性
米共和党の分断
米下院は、議長の選出にあたり、15回の投票を行いました。1回目の投票で議長が決まらなかったのは100年ぶりのことだそうです。
共和党内の『分断』は、今回の下院議長選のみならず、2024年の大統領選挙に向けた共和党の候補選びでも見られる可能性があります。加えて、共和党内で一本化された候補を、落選した候補やその支持者たちが支援するかどうかも不透明です。
共和党内の分断は、2024年の大統領選挙の結果そのものや、その後の米国の経済政策や株価動向にも影響を与えます(→別途、2024年の大統領選挙においては、米国と対立する国々が「情報戦」によって米国内の分断を煽ろうとするか、どちらかを側面支援すると見られます)。
ほかにも、(マッカーシー下院議長選出を阻もうとした)下院共和党の保守派が勢いを強めれば、ウクライナへの財政・軍事支援継続が困難になって、①ロシア・ウクライナ戦争の戦況に影響を与える可能性があるほか、②米国が主体となり、停戦へとつながる可能性も考えられます。停戦になれば、インフレ懸念が後退し、株価が上昇する可能性があります。
米国の物価動向→金融政策→景気
現在、米国の政策金利(誘導レンジ4.25~4.5%)は、PCEコア・インフレ率(前年比4.7%)を下回っています。実質政策金利は依然マイナスで、金融環境は緩和的です。実際、米国経済の基礎指標である、実質個人消費支出、コア資本財受注、労働市場はいずれも堅調さを維持しています。
米連邦準備制度理事会(FRB)は政策金利を、5%を幾分上回る水準にまで引き上げた後、様子見に転じると見られます。しかし、物価計測の誤差を考慮すると、引き締めは十分ではなくインフレ率が高止まりするリスクがあります。インフレが高止まりすれば、「利上げ再開」を含め、景気や資産価格に悪影響を与えます。
中国や台湾に関連する不透明性
中国:コロナウイルス政策と経済状況
中国は、昨年12月初旬から、公共交通機関での陰性証明の提示を不要にするなどして「ゼロコロナ政策」を緩和し、本年1月8日からは中国入境時の隔離措置を撤廃し、同政策を完全に終了しました(→ご参考までに、旧正月(春節)は今月22日からだそうです)。この政策転換が、今後の中国国内の感染の動向と経済活動に与える影響は不透明です。
われわれのいる日本は、中国に比べて、感染やワクチン接種による抗体保有率が高いと見られます。その日本の最近の感染状況や死者数の推移を見ている限り、中国においても楽観は禁物でしょう。
感染拡大によって供給能力が低迷してインフレにつながるか、逆に需要の低迷が続いて経済の低空飛行が続くか、いずれにせよ、不透明感が高いと言えるでしょう。中国経済の動向は、世界経済や日本企業の業績にも影響を与えます。
新たな習近平政権の経済政策
2023年3月5日からは、第14期全国人民代表大会第1回会議(国会に相当)が開かれます。新しい閣僚が正式に決定し、経済政策も本格的に動き始めるでしょう。
2022年10月の共産党大会の習近平総書記による報告では、「中国式現代化」(社会主義現代化強国の全面的完成)が強調されました。今後の中国の経済政策について、同報告の内容や、鄧小平氏の「先富后共富」(豊かになれるものが先に豊かになり、その後、皆が豊かになる)という言葉に従えば、「国進民退」と富の再分配を急速に進めていくのか、あるいは、「改革開放」とのバランスを取っていくのか、まだ明確ではありません(→どちらの見方もあり、予想は割れているようです)。
台湾の政治
与党民進党は昨年11月の統一地方選挙で敗れ、蔡英文総統は、民進党の党主席を辞任しました。
敗因については、「対中強硬的な外交姿勢である」と分析する向きや、内政面を指摘する向きで分かれるようですが、いずれにせよ、2024年1月の台湾総統選挙に向けて、民進党が党勢を盛り返せるのか、それとも、中国と融和的とされる国民党が党勢を増すのか(→「情報戦」が実施されるでしょう)、どちらの指導者が次の台湾総統になるのか、それら次第で、中国の台湾に対する姿勢は変わると見られるほか、場合によっては米国の台湾に対する姿勢や政策も変わるかもしれません。
台湾の政治動向は、日本の今後の外交政策や防衛政策、経済安全保障政策にも影響を与えます。