“他人から見て愚かなもの”に価値は眠っている
イーロン・マスクの判断基準「クレバー/フーリッシュ・マトリクス」
たとえば、イーロン・マスク(1971〜)。彼を知らないビジネスパーソンはいないでしょう。宇宙ロケットを製造開発する「スペースⅩ」や電気自動車を開発する「テスラ」を創業した、言わずと知れた世界トップクラスの実業家です。
彼が価値判断する際に用いている軸に「クレバー/フーリッシュ・マトリクス」というものがあります。イーロン・マスクは、何か新しい事業に挑戦するときに、このクレバー/フーリッシュの軸に照らし合わせて、「やる/やらない」を決めていると分析されています。直訳すると、クレバーとは賢い、フーリッシュとは愚か。イーロン・マスクが判断軸としているものは、クレバーが挑戦に値すること、フーリッシュが挑戦する価値がないこと、ととらえてもいいでしょう。
自分から見てクレバーかフーリッシュかを横軸に、他人から見てフーリッシュかクレバーかを縦軸にしていくとマトリクスが完成します[図表]。
そこには、次の4つのゾーンが出現します。
➀自分から見て賢い(クレバー)と思う&他人から見て愚か(フーリッシュ)だと思う
②自分から見て賢い(クレバー)と思う&他人から見て賢い(クレバー)と思う
③自分から見て愚か(フーリッシュ)だと思う&他人から見て愚か(フーリッシュ)だと思う
④自分から見て愚か(フーリッシュ)だと思う&他人から見て賢い(クレバー)と思う
この4つのゾーンのうち、イーロン・マスクが重視するのは①です。他人から見ると愚かに見えても、自分にすれば賢いと思えるものこそ、事業として成功の確率が高く、優先的に取り組むべきというのが彼の考え方なのです。
たまたまイーロン・マスクは自覚的に、あえて言語化しているためにわかりやすいですが、成功者たちは大なり小なり「他人から見て愚かだが自分にとっては賢い挑戦」にチャレンジしています。
iPhoneも発売当時は酷評されていた
スティーブ・ジョブズもそうですよね。当時、フューチャーフォン(いまで言うガラケー)が主流の携帯市場に突如現れたiPhone。日本のフューチャーフォンの開発者たちは「あんなものは売れない」「電話にウォークマン機能はいらない」とさんざん酷評しました。ところがiPhoneはあっという間にシェアを伸ばし、「携帯電話」の概念を変えたスマートフォンがいまや一世を風靡していることはみなさんよくご存知のはずです。
成功者たちがこれまで果敢に挑んできた新しいチャレンジ。たとえ、まわりから「あいつはバカなことをやっている」と思われようが、そんなのおかまいなし。
なぜなら、そうした成功者たちは周りの人間が「これはさすがに無理」「リスクが高すぎる」ということでもあきらめず、果敢にチャレンジしたからこそ、大きな成功を手に入れることができたのです。
茂木 健一郎
理学博士/脳科学者