(※写真はイメージです/PIXTA)

近年、薬が効かない感染症による死者が増加傾向にあると言われています。2014年に、イギリスの調査チームからは「現状のままで何も対策をしなければ、2050年には薬剤耐性菌による死者が、現在の年間70万人から1,000万人以上になる」という驚きの研究結果が報告されています。東大病院に勤務後、現在は年間10万人を超す外来患者を診療する眼科病院の理事を務める眼科医・宮田和典氏が、我々を脅かす菌の性質から、現状の対策について解説します。

あらゆる抗菌薬に対して抵抗力をもつスーパー耐性菌

2015年にはWHOの総会で、薬剤耐性(AMR)に関するグローバル・アクション・プランが採択されて、加盟各国は2年以内に薬剤耐性に関する国家行動計画を策定することが求められました。

 

これを受けて我が国においても2016年4月に、初めてのアクションプラン「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」[図表1]を策定しました。

 

なお2014年のイギリスの研究報告以降もさまざまな耐性菌に関する研究報告がなされています。例えば2016年5月にはイギリス政府が、スーパー耐性菌による感染症が2050年までに流行し、3秒に1人が死ぬ未来がやってくる可能性を報告しています。

 

そして実際に、同年6月にはアメリカで初のスーパー耐性菌の感染例が報告されました。なお、スーパー耐性菌とは、薬剤耐性菌のなかでもあらゆる抗菌薬に対して抵抗力をもち、薬が効かない耐性菌のことを指しています。

風邪には効果がない抗菌薬がなぜ処方される?

我が国の2016年の「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」では、抗微生物剤の適正使用……医療・畜水産等の分野における抗微生物剤の適正な使用を推進しています([図表1])。

 

[図表1]AMR対策アクションプラン

 

なお抗微生物剤とは、抗真菌剤や抗菌薬、抗ウイルス剤などの総称です。

 

ここで非常に興味深いのは「抗微生物剤の適正使用」が非常に重要な事項として盛り込まれていることです。抗微生物剤の適正使用とは「これまでは抗菌薬など抗微生物剤を使い過ぎてきた。これからは本当に必要なときにだけ、使いなさい」ということです。

 

かつては、必ずしも必要ではない場合にも抗菌薬が処方されることがありました。代表格は、風邪で熱が出たときに処方されていた抗菌薬です。

 

風邪の原因はほとんどがウイルスですから、細菌を殺すための抗菌薬は効果がありません。それにもかかわらず、風邪で内科などを受診すると、抗菌薬が処方されている時代がありました。

 

なぜ、効果がないどころか耐性菌を作ってしまうリスクすらある抗菌薬が処方されてきたのでしょうか。

 

これにはいくつかの理由が考えられますが、理由の一つに「細菌による二次感染を防ぐ」という目的があると思います。しかし、実際はこれが原因で細菌性の病気を起こすことはほとんどありません。耐性に関する問題が明らかになった現在は、その使用は控えるべきかもしれません。

 

宮田 和典
宮田眼科病院 理事長
医療法人明和会 理事長
 

※ 本連載は、宮田和典氏の著書『診断治療の質を上げる ペイシェント・ベイスド・メディスン』(幻冬舎メディアコンサルティング)から一部を抜粋し、再構成したものです

診断治療の質を上げる ペイシェント・ベイスド・メディスン

診断治療の質を上げる ペイシェント・ベイスド・メディスン

宮田 和典

幻冬舎メディアコンサルティング

患者の出身地や食生活によって、かかりやすい病気、重症度が変わる――。 環境的要因と遺伝的要因から最適な治療を導く。医療の質を向上させる新たな概念「PBM」とは? 1990年代にカナダで提唱された「エビデンス・ベイスド…

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