薬剤耐性菌の増加は人類にとって大きな脅威
耐性菌に抗菌薬を投与すると勢力が増し、逆効果に
常在菌とは人間の体にもともと住みついている細菌のことです。人間の体には口の中や皮膚、大腸などあらゆるところに、さまざまな細菌が住みついていて、良いはたらきも悪いはたらきも両方を行いながら私たちと共生しているのです。例えば大腸には、乳酸菌や大腸菌などを始めとして100兆個以上の腸内細菌が生息し、菌同士でバランスを保ちながら腸内環境を維持しています。
特定の細菌が抗菌薬に対する耐性をもってしまうと、その抗菌薬を投与した際に、本来のターゲットである細菌は死滅せず、周囲にいる常在菌だけが死んでしまいます。
細菌は私たちの体内でバランスを保ちながら住みついていますから、他の細菌が死滅して耐性菌だけが生き残ると、死ななかった耐性菌はますます勢いを増していくことになります。
耐性菌が出現したら、さらにその耐性菌に効果のある抗菌薬を開発すればよいと思うかもしれませんが、事態はそれほど簡単ではありません。耐性菌に効果のある抗菌薬を開発しても、またすぐにその抗菌薬に対する耐性菌が出現します。抗菌薬と薬剤耐性菌の関係は、どこまでも続くいたちごっこです。
特に1980年代以降は、抗菌薬の不適切な使用などと相まって、薬剤耐性菌は増加する一方で、新しい抗菌薬の開発は減少しています。
抗菌薬が効かない薬剤耐性菌が増えてしまうと、世界中で治療法のない感染症が増えていってしまうかもしれないのです。
2050年には耐性菌による死者が、年間70万人から1,000万になる予測も
薬剤耐性菌の増加は人類にとっての大きな脅威です。
実際に、抗菌薬が効かない感染症による死者が増加傾向にあるとの報告もあります。また、2014年にはイギリスの薬剤耐性菌の調査チームが、現状のままで何も対策をしなければ、2050年には薬剤耐性菌による死者が、現在の年間70万人から年間1,000万人以上になるとの驚きの研究結果を報告しています。
薬剤耐性菌の問題は、数十年前から知られていましたが、全世界を巻き込んだ大掛かりな対応は取られてきませんでした。しかしこうした報告を受けて、世界保健機関(WHO)を中心に世界規模での対策が必要となったのです。