地域による環境差を考慮することで誤診リスクの抑止に
しかし、もともとは九州に多いことで知られているウイルスなのです。そして、父と望月氏の調査によって、当地域のぶどう膜炎はHTLV‒1を原因とするものが圧倒的に多いことが証明されたのです。
他の地域ではまったく名前の出てこないHTLV‒1が当地域ではぶどう膜炎の原因疾患の1位に来るという、非常にインパクトのある研究結果となりました。
ほとんどのぶどう膜炎はサルコイドーシスを始めとする3大ぶどう膜炎を主に診断されるのが一般的です。
しかし、これまで見てきたように、地域によって病気の原因が大きく異なることが分かりました。眼科のごく一般的な、教科書通りの知識を地域による差異を考えずに患者に当てはめようとすると、誤診などのリスクが高くなる可能性があります。あるいは仮に正確に診断できたとしても、非常に時間がかかってしまうかもしれません。
3位のトキソプラズマ症も全国的には珍しい疾患
父と望月氏が行った調査は、もともと当地域のぶどう膜炎に非常に分類不能のものが多かったことから始まりました。分類不能のぶどう膜炎を調べるうちに、その多くがHTLV‒1によるものだと判明したのです。もう一つの特徴であるトキソプラズマ症も、一般的に考えればごく珍しい病気です。
しかしこの地域ではおよそ10人に1人はトキソプラズマ症によってぶどう膜炎を引き起こしていました。つまりこの地域のぶどう膜炎は、それほど独特なものだと言えるのです。
原因疾患が変わってくると、重症度やその後の経過、治療方法なども変わってきます。このことからも、標準化されたEBMにとらわれ過ぎて患者の治療に当たることのリスク、そして、常識にとらわれることなく目の前の患者自身から真摯に答えを導き出すことの重要さを痛感したのです。
参考文献 Takahashi T, Takase H, Urano T, Sugita S, Miyata K, Miyata
N, Mochizuki M. Clinical features of human T-lymphotropic
virus type 1 uveitis: a long-term follow-up. Ocul Immunol
Inflamm. 2000; 8: 235-241
宮田 和典
宮田眼科病院 理事長
医療法人明和会 理事長