部下に「ガンバレ!」はNGワード
そもそも、生まれた時からヤル気のない人はいない、ということは間違いありません。ヤル気のない赤ちゃんなんて、見たこともありません。もともと生まれ持っていたヤル気、実は大人の手によって減っていくようです。
たとえばお子さんが通知表を持って帰った時、苦手な「算数」だけ成績がイマイチで他はまずまず。するとあなたから「あとは算数をガンバレ」と言われた時、お子さんは心の中で(苦手な算数をただ頑張れ、と言われても……)(他と同じように頑張ったのに……)と感じ、ますます算数がイヤになります。
部下の指導でもそうです。社内の仕事も覚え、お客様の対応もできるようになってきた。月次での目標も達成し、褒めてもらえると思ったら「あとは新規開拓をガンバレよ」とリーダーであるあなたに言われたら、部下はどう思うでしょう?
(それよりも今月の達成を褒めてよ……)あなたにも経験ありませんか?
このように、人のヤル気を引き出す上で「ガンバレ」はNGワードなのです。
「ガンバレ」は“苦手なこと”に対して言われてきた言葉
先ほどの話の通り「ガンバレ」は子供の頃からずっと、苦手なことに対して言われてきた言葉です。
だから、ガンバレって言われると条件反射的にヤル気が目減りします。ガンバレは相手ができていないことを一瞬にして伝え、ヤル気を無くさせる、という一面もあるのです。
では、ガンバレではなくどのような言葉をかければ人のヤル気を引き出せるのでしょうか? それは、まず今の状態を認め受け入れた上で相手を気持ち良くする言葉を与え、具体的に何をすればいいのかを示してあげることです。
先ほどの部下指導の話で言えば月次目標を達成してくれたことを真っ先に褒めます。
「よく達成してくれたね!」(現状容認)
「期待に応えてくれてすごく嬉しい!」(気持ち良くする言葉)
「今の君がもし新規開拓にもエネルギーを注ぐ気になれば、年次目標も絶対達成できると思う。新規開拓にチャレンジしてみないか?」(具体的にしてほしいこと)
という流れです。
冷静なSさんが泣き崩れたワケ
顧問先の営業担当者であるSさんは、繊細な心の持ち主です。口数も少なく、常に自問自答しながら表情を変えることなく仕事に取り組む冷静さを持っています。
ある日、Sさんの仕事がクレームになってしまいました。対策会議をしている中で、Sさんの口からマイナスな発言、他者に責任があるかのような発言がありました。明らかに「自分は悪くない」という態度で話していましたが、実際は逃げているように私には見えました。
しばらくは黙って聞いていましたが、ついに我慢できず、「自分の問題やで。頑張らないとどうするよ!」と言ってしまいました。
その瞬間、Sさんは泣き崩れてしまいました。後で話を聞くと、私に言われた「ガンバレ」がものすごく悔しかったそうです。手を抜いて仕事しているわけではなく、逆に必死になって取り組んでいたのにクレームになり、とても悔しい想いをしていた上に私からガンバレと言われ、悔しさのあまり泣いてしまったと話してくれました。
私にとってはとても胸の痛い、大きく反省させられた場面になりました。彼女のパフォーマンスを最大化させるのがリーダーの役目なのに、ヤル気を失わせるような一言を感情に任せて放ってしまったのです。
何気なく使っている「ガンバレ」という便利なフレーズは、あまり効果がないばかりか、むしろ逆効果になることの方が多いです。すでに十分頑張っているような人たちには無責任な言葉でしかないのです。
特に上司から部下に声をかける時や、ご主人が奥様に声をかける時、親が子どもに声をかける時の「ガンバレ」には十分お気をつけください。「言われなくても頑張ってるし!」「何それ、私が頑張ってないってこと?」などという逆襲にあう恐れがあります。
ガンバレ、だけでは人は動きません。それは部下を信用していない証拠でもあるのです。
中田 仁之
株式会社S.K.Y.代表取締役
中小企業診断士