(写真はイメージです/PIXTA)

欧州経済は、コロナ禍からの回復を着実に進める一方、ロシアがウクライナに侵攻して以降はエネルギーの供給懸念や価格高騰の影響を大きく受けています。はたして、2023年はどうなるのでしょうか。ニッセイ基礎研究所、伊藤さゆり氏と高山武士氏の分析です。

財政支援:生活費対策としての財政支援を実施

各国ではエネルギー価格高騰への対策を講じている。

 

各国の措置としてはエネルギー減税、卸・小売価格の制限、ぜい弱層向けの所得支援が挙げられ、ドイツで実施されるガス価格・電力価格の上限設定(小売価格の制限)*6が代表的である。21年9月以降に発表された各国の措置は、EU全体で約6,000億ユーロの規模に達し(欧州シンクタンクBrugelの集計)*7、22年に続き23年にも手厚い支援が実施される予定となっている(OECDの集計、図表15*8

 

【図表15】
【図表15】

 

これら6000億ユーロの措置のうちドイツが2,640億を占め、また上述の小売価格の制限に540億ユーロが割り当てられている。この小売価格の上限措置では、上流エネルギー価格の下流光熱費への転嫁を直接的に制限する。そのため、消費者物価の伸び率のピークアウトにも直接的に寄与するだろう。なお、こうした支援策と合わせて超過利潤課税などを実施し、財政スタンスが過度に緩和的にならないよう検討されている。ただし、財政による直接的な支援は価格メカニズムによる需要抑制効果を薄めてしまう*9。高インフレ下のエネルギー危機対策は対象をぜい弱層に絞り、財政スタンスは全体として抑制的であることが望ましいが、現在、検討・実施されている措置は全体として財政緩和的であり、インフレ抑制効果を減じている面がある。

 

また、EUレベルでも様々な措置が合意されている。

 

具体的には*10、「EU全体の電力需要を減らす協調的措置」として過去5年平均から10%削減の目標および毎月の電力消費ピーク時における総電力消費量予測から5%削減すること、「低コスト発電事業者の収益制限や化石燃料供給者への連帯拠出金徴収」として、過去4年の平均と比較して20%を超える増加分に対して、少なくとも33%以上の連帯拠出金を徴収すること、「発電コストの安い電力の販売価格抑制」として、販売収益の上限額を1メガワット時につき180ユーロに設定することが挙げられる。

 

さらに、23年以降も続くガス不足懸念への対応として、「ガスの共同調達」(少なくとも各加盟国の貯蔵量の15%までは共同で調達する)、「ガス供給不足時の加盟国間での融通」(2国間協定がない場合の緊急時の融通規則を規定)、「新たなLNG価格指標の開発と、それまでの短期的措置としての卸売ガス価格への上限設定、担保要件の見直し」についての検討が行われている*11。このうち、短期的措置としての卸売ガス価格の上限設定について、各国間の意見の相違があり調整が続けられている12。ただし、卸売ガスの上限設定については、夏場のような高騰に対応するための措置が検討されている状況であり、メインシナリオでは、実際に上限が発動されるようなガス価格の上昇は見込んでいない。

 

*6:例えばドイツでは、24年4月30日まで一般家庭と中小企業に対して、ガスで0.12ユーロ、電力で0.4ユーロ(いずれも1キロワット時)の上限を設定する予定(ただし、年間予測消費量の80%部分。残りの20%部分は契約上価格となる。年間消費量の80%を下回った場合には還付措置がある)。また、大企業向けにも同様に上限を設定予定。

*7:OECD(2022), OECD Economic Outlook, Volume 2022 Issue 2: Preliminary version(22年12月16日アクセス)。

*8:Giovanni Sgaravatti, Simone Tagliapietra and Georg Zachmann, National policies to shield consumers from rising energy prices, BRUEGEL DATASETS(22年12月16日アクセス)。

*9:上述のドイツの小売価格制限では消費量が過度に増加しないよう上限設定部分を限定するといった配慮がなされているが、より包括的な支援策を講じる国が多い。例えば、ECB(2022), Financial Stability Review, November 2022, Chart 1.4(22年12月16日アクセス)。

*10:Council of the EU, Council agrees on emergency measures to reduce energy prices, 30 September 2022(22年12月16日アクセス)

*11:European Commission, Commission makes additional proposals to fight high energy prices and ensure security of supply, 18 October 2022(22年12月16日アクセス)、European Council, 20~21 October 2022(22年12月16日アクセス)、European Commission, Commission proposes a new EU instrument to limit excessive gas price spikes, 22 November 2022(22年12月16日アクセス)、Council of the EU, Council agrees on substance of new measures on joint purchases of gas and a solidarity mechanism, 24 November 2022(22年12月16日アクセス)

*12:ドイツ、オランダ、スウェーデン、フィンランド、オランダ、ハンガリーが上限設定により、供給業者が欧州以外に販売するインセンティブが増し消費抑制効果が減少する、ロシアからのガス供給削減の口実となるとして反対の立場である一方、ベルギー、ポーランド、イタリア、ギリシャは欧州委員会の提案である1メガワット時あたり275ユーロという条件が厳しい(上限が高すぎて意味がない)とする立場と言われている。

 

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※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2022年12月16日に公開したレポートを転載したものです。

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