食後血糖値に直接影響するのは、あくまで「ブドウ糖」
本稿は、あくまでも糖尿病を意識している方へのアドバイスです。基本的な考えとして、食品中の糖質の中から、血糖値に直接影響する「ブドウ糖」換算量(wtGL)を求めるようにしています。
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<食後高血糖を意識した食事のポイント>
①各食事において糖尿病の方はwtGL40g、境界型糖尿病の方はwtGL50gを超えないことを銘記してください。これは別稿で説明した2つの糖負荷試験の血糖変動値から私が導いた結果です。
②ただし食事のスピードや組み合わせ、食後すぐの運動の励行によっては、上記の限りではありません。
③1人前(意見の相違はあるとしても、その食品の常識的な摂取量)がブドウ糖換算量5g以下の食品は血糖変動への悪影響なしと考えます。
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本稿では、穀物をはじめとして、おでんやおせちといった食品のブドウ糖換算量を求める方法を説明します。ケーキや団子などの間食や、飲料水については、別稿にてまた解説します。
ブドウ糖換算量を計算するための前知識
本題に入る前に、ブドウ糖換算量を求めるための前提知識を簡単におさらいしましょう。
実際に食べる食品にどれくらいブドウ糖が含まれるのか、すなわちwtGLは、「RGI×食べる量(g)」で求められます。
RGIとは食品中のブドウ糖換算比率で、CI×GIで求められます。
CI値とは、食品中の炭水化物(または糖質)の含有比率のこと。
GI値とは、食品中に含まれる炭水化物(または糖質中)中のブドウ糖換算比率のこと。このGI値は世間でもよく知られた指標ですね。
wtGL値・RGI値・CI値はあくまで私の造語ですので、インターネットで検索しても出てくるものではありません。
「GI値が高いと血糖値が上がる」という論調をよく見かけますが、あくまでGI値はブドウ糖の比率を示すのみで、ブドウ糖の量を表す指標ではないため、GI値だけでは血糖値への影響はわかりません。
そこで、実際に食べる食品中に含まれるwtGL値を求める方法として、冒頭でも紹介した計算式を使います。
【実際に摂る食品量(g)×RGI=実際のwtGL値(g)】
RGIに「実際に食べる量」をかけるだけ
RGIに「実際に摂取する食品量(g)」をかけることで、その食品のブドウ糖換算量がわかります。
(※注:食品中の糖質量が表示されていたり、ネットで検索できる場合には、糖質量にGIをかけると簡単にwtGLを計算できます。)
本稿では穀物、おでん、おせちをピックアップし、図表1~6にそれぞれの食品のRGIを記載しました。各RGIに実際に食べる量をかければ、血糖値への影響度合いや、食べて大丈夫かどうかがわかります。
なお、表におけるGL値とは、各食品を1人前としたときのブドウ糖換算量のことです。
穀物のRGI(図表1)
ざっくりいえば、ここに示す主食の中の穀物の有するwtGL値だけ計算できれば、細かいことは気にしなくて構いません。なぜなら以前も解説したように、タンパク質や脂質、または食物繊維の多いものをおかずとして一緒に摂取すると、糖質を単独で摂取するよりも総wtGL値は増えることはなく、むしろ減少するからです。
<食後血糖値を抑えるためのアドバイス>
●フランスパンやクロワッサンなどに、チーズ、バター、卵、ハムなど入れるとよりいいですね。
ご飯を例に取ると、1膳単独で約wtGL値は40gくらいですので、芋類や小麦粉食品に気をつければ、色んなおかずを増やせば増やすほど総wtGL値は下がります。しっかり食べてください。パスタなどについても同様にお考えください。
●麺類は一気に食べる傾向があるので注意。たとえばそうめん2束は気をつけて。麺類の他に、しっかりとおかずを一緒に摂りましょう。
果物のRGI(図表2)
果物の種類によってブドウ糖と果糖の比率が違うことを参考にしてください。
<アドバイス>
●レーズンパンを食べるときは、レーズンの数をちょっと気にしてください。バターや牛乳を追加するのもオススメです。
●バナナを食事の際に摂るときは気をつけて。むしろ小腹が空いたときに食べるのがオススメです。
●マンゴーはGL値は高いけれど、パパイヤは少ないですね。
●おせちの干し柿は要注意です。普通の柿なら丸々1個は食べないでしょうが、水分が抜けて小さくなった干し柿なら気軽に食べてしまうのでは? さらに砂糖もついているのでご注意を。
芋類のRGI(図表3)
<アドバイス>
●芋類はできるだけおかずにしないようにしましょう。何でも「食べる量」に左右されます。たとえばコロッケなら、ご飯と一緒に食べるときは半分にするか、メンチカツに変えましょう。
●干し芋は、糖質量が書いてあればですが、約半分弱がブドウ糖となります。干してあっても生でも、GI値が44%というのは変わらないからです。
豆類のRGI(図表4)
大豆はほとんどブドウ糖がありません。そのため図表4では、通常の1人前ならブドウ糖換算量を無視できる豆類を省略しています。
<アドバイス>
当然のことですが、気にすべきは摂取量です。おせちの黒豆は要注意です。
種実のRGI(図表5)
栗は要注意です。一方、栗以外の種実はほとんどブドウ糖を含みません。
<アドバイス>
●アーモンドクルミ、カシューナッツ、マカデミアンナッツなどは大丈夫。むしろ良質な不飽和脂肪酸を含むため、糖尿病の人にオススメできます。
●栗ご飯は確かに美味しいですが、量を少なくしてください。また、栗きんとんやマロングラッセは要注意です。
野菜のRGI(図表6)
糖尿病の方が気をつけるとしたら、図表6の2つくらいです。
<アドバイス>
●「人参はGI値が高くて糖質も多いため、糖尿病の人に良くない」との記事を散見します。しかし、人参は他の野菜と同様にほとんどが水分です。RGIが0.06なので、たとえ人参を100g食べたとしても、ブドウ糖は6g相当しかありません。
ちなみにダイコン、レンコン、ごぼう、ナスはほとんどが水分であり、かつGI値が低い野菜です。これらに含まれる糖質の大半は「果糖」であり、通常量では血糖値に影響しません。繰り返しますが、血糖値に直接影響するのは、糖質の中でもあくまで「ブドウ糖」です。
(※ご参考:ほとんどの野菜の糖質は果糖であり、かつ食物繊維が多いことから、血糖値に影響しません。トンカツ定食に添えられるキャベツはむしろ糖尿病の味方です。)
おでんで注意すべきはジャガイモ、もち巾着くらい
これからの季節に向けて、おでんとおせちについても取り上げてみましょう。
だいこん、こんにゃく、たまご、焼きちくわ、はんぺん、牛すじ、厚揚げ、白滝、昆布巻き…どれを食べても血糖値は大丈夫です。焼きちくわやはんぺんなども、どれもブドウ糖換算量5g以下です。糖質が多いと説明する方がいますが、GI値を考えると通常量では血糖値に影響しません。また、ごぼう巻は果糖が多く、かつ食物繊維が豊富です。
おでんで血糖値が気になる具材は、ジャガイモ、もち巾着くらいです。
おでんの場合、たまごを先に食べるというのも一工夫です。インクレチン刺激⇒インスリン分泌という効果があります。
おせち料理で気をつけたいメニューは…(図表7)
糖質が多い順に見ていきましょう。
1)栗きんとん
糖質26.7g、ブドウ糖換算で15gとなります。とはいえ15gというのは、みかんやおせちの黒豆と一緒ではさすがに多いです。栗と砂糖のGI値は60程度です。一方、さつまいものGIは44%で計算しています。
2)お餅
CI=50÷100=0.5。図表には記載していませんが、GI値は83%なので、RGI=0.5×GI=0.42。つまりお餅50gなら50×0.42=21g。これがブドウ糖換算量となります。
3)干し柿
糖質22.9g、GI値は44%。よってブドウ糖換算は約10gです。
4)伊達巻
GI値50%程度なので、11×0.5=5.5gとなります。
5)黒豆
黒豆だけのRGIは図表4のごとく0.09なので、黒豆20gならブドウ糖換算としては 20×0.09=1.8gです。また、図表には記載していませんが、黒豆のGI値は30%です。すると、黒豆の糖質量を逆算すると1.8÷0.3=6。つまり黒豆20gの糖質は6gとなります。
ここでのおせちの黒豆の糖質が11となっているのは、11-6(黒豆の糖質)=5g分の砂糖が余分と計算できます。
砂糖のGI値を60%とすると、5×0.6でブドウ糖換算は3g。つまり、ここでのおせちの黒豆は1.8g+3gで約5gのブドウ糖換算量と計算されます。
一方で紅白なます、田作り、昆布巻き、数の子などに含まれる糖質は、基本的には調味料です。以前にも説明したように、調味料のブドウ糖量はほとんど問題になりません。
團 茂樹(だん しげき)
宇部内科小児科医院 院長
総合内科専門医
日本大学医学部附属病院で血液のガン治療に従事した後、自治医科大学へ国内留学、基礎研究分野の経験を経て大学病院や地方病院に勤務。その後、遺伝子研究の本場・カナダオンタリオ州立ガンセンターで遺伝子生物学に関する基礎研究に従事。帰国後、那須中央病院の内科部長を経て、宇部内科小児科医院副院長に就任。その後3年間、千代田漢方クリニック院長を兼任。
以来16年余り漢方治療を導入。2010年から現職。2015年に総合内科専門医を取得。総合臨床医として様々な症例に携わるとともに、臨床で培った経験や医療情報の中から選りすぐったアドバイスを行うダイエット法には定評がある。
著書に『糖尿病は炭水化物コントロールでよくなる』(2022年6月刊行、合同フォレスト)がある。