食後血糖値は「実際に摂るブドウ糖の量」がカギ
血糖変動に関わる要因は、食品の摂取カロリーではなくブドウ糖換算量(wtGL値)およびそれに反応する自己インスリン分泌能です。
本稿ではwtGLに限った話をします。
(※注:本文中ではGLとwtGLが混在しますが、1人前の値として報告されているものはGLと表記しています。摂取する食品量で変わるというイメージを伝えたいときに、筆者の造語であるwtGLを使っています。)
摂取する食品のwtGL値を知るためには、次の指標が必要です。
1)食品自体の量(g)
2)CI値:食品中の炭水化物(または糖質)の含有比率
3)GI値:食品中の炭水化物(又は糖質)に占めるブドウ糖換算比率
これらの指標を用いて、以下の式で算出します。
【wtGL値=食品摂取量(g)×CI値×GI値】
また、炭水化物(または糖質)の量(g)がわかっている場合には、次の計算式でも求められます。
【wtGL値=C(g)×GI値】
(※炭水化物=Carbohydrateなので、頭文字をとって「C」と表記。)
血糖値に影響する「材料」や「食べ方」を知っておく
まず、これは和食、洋食、中華、イタリアン、フレンチなどすべてに言えることですが、その料理に使われている以下の材料について知ることで、簡単に判断できます。
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a. ご飯、パン、ラーメン、うどん、そば、パスタなどの「穀物」の量と、じゃがいもを代表とする「芋類」。
b. 調味料は、通常の使用量であればどれもほとんど血糖値に影響しません。この点をしっかり銘記していただければ迷わないはずです。オリーブ油やチーズおよび酢などは、むしろ血糖値を下げる方向に働きます(※例外:カレールーやハヤシルーは摂り過ぎに注意)。
c. 肉魚、豚、鴨、豆腐、納豆、卵などのタンパク質は、穀物と一緒に摂ったほうがインスリン追加分泌作用も手伝って、穀物単独で摂るよりは血糖値を下げます。
d. ほとんどの脂肪も、炭水化物と一緒に摂ることで、血糖値をわずかに下げることはあっても上げることはありません。
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血糖値への影響において、一番厄介なのは洋菓子や和菓子などの間食ですが、これは別の機会に。
GL値の比較:血糖値に響きにくい「主食品」はどちら?
ここからは料理について説明していきます。
基本的に知っておいて欲しいこととして、次の内容があります。
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a. 同じ小麦粉を使用していても、小麦粉自体の種類や製法の違いや、さらには茹で方などの違いによってwtGL値が変わります。うどんやそば、ラーメンに比べて、パスタ類はGI値が低く通常量でのwtGL値も低い傾向にあります。
b. 穀物について言えば、白米や小麦粉などの精製された原料はGI値が高く、当然、通常量でもwtGL値は高くなります。一方で、クロワッサンのバターやラザニアのチーズのように脂質やタンパク質と組み合わせると、wtGLは抑えられます。
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少し具体例を挙げて比較してみましょう。
主にfood-hack.comのデータを活用しつつ、一部、シドニー大学のデータを参考に私なりのアレンジを加えています。
◆カルボナーラスパゲッティ(GL値9)VS. 茹でたそば(GL値24)
見た目こってりのカルボナーラスパゲッティですが、GL値は日本そばの半分以下。これは、使われる生クリームや卵、ベーコンなどの脂質やタンパク質がパスタをコーティングして、糖分の吸収を抑えてくれるからです。さらにパスタに使う小麦はうどんや蕎麦に比べてGI値が低いようです。
◆茹でたうどん(GL値32)VS. インスタントラーメン(GL値40)
麺だけでの対決なら、茹でたうどん1玉分(250g)より、インスタントラーメン1袋分(85g)のほうがGL値は高い。特にインスタントラーメンのGL値は白米と同等に高いので、野菜をたっぷり加え、チャーシュー、卵などのタンパク質を加えてください。
◆ラザニア(GL値8)VS. ピザ(GL値24)
ボリューミーなイメージのラザニアですが、GL値はピザの1/3程度。ピザにもラザニアにも使われているチーズには、ほかのものと一緒に食べると血糖値の急激な上昇を抑える働きがあるようです。チーズに加え、牛挽肉などのタンパク質も豊富に含むラザニアのほうが、GL値は低くなります。
◆えびグラタン(GL値18)VS. ピラフ(GL値44)
えびグラタンにはマカロニが入っています。マカロニは小麦粉から作られていますが、普通の小麦粉に比べGI値は低く、また、ごはんに比してもかなり低くなっています。さらにチーズがたっぷりなおかげでGL値が低くなります。また、えびにも糖質がほとんど含まれておらず、タンパク質も豊富。
◆焼きそば(GL値36)VS. お好み焼き(GL値40以下)
ここでの焼きそばは1皿280g・糖質量64gです。GI値55ということでGL値36gと計算されます。
お好み焼き自体の糖質は、小麦粉や山芋などの材料を考えると1人前で50gくらいという報告があります。小麦粉のGI値は80%前後ですので、この時点でwtGL値はざっくり40g。キャベツをたっぷり入れ、マヨネーズをたっぷりかけて、お好み焼きソースもたっぷりかけてもwtGLは40gをさらに下回るはず。
◆カレーライス(GL値65)VS. 握り寿司10貫(推定GL値26)
ここでのカレーライスは白米150gとします。ご飯だけのGLは41と報告されています。カレールーは1人前分だとGI値50程度というネット情報を加味すると、GLは5g程度。さらにじゃがいもは1個120g(糖質量20g)とあり、GI値96とされていますので、GLは19となります。
ニンジンも30g程度入れていますが、CI値10%以下、摂取量30gでは問題になりません。ご飯やじゃがいも、カレールーの合計GL値は41+19+5=65と計算されます。これは糖尿病の人には多すぎます。65→50以下に抑えるべきなので、ご飯やじゃがいもの量を減らすべきです。
なお、カレーライスを上記の条件で考えたのは、原文ではカレー516gで炭水化物124g・GI値67とありましたが、これはご飯の量が2人前分なのかスープカレーなのかと疑問に思ったためです。
いい機会なのでちょっとおさらいしましょう。
カレーライスはスープの多寡、つまり水分量や具材の重さでCIは変わりますが、GI値という点からはご飯、じゃがいも、カレールーのような炭水化物主体の食材の量が同じであれば、スープカレーであっても普通のカレーであっても同じです。
ここでの寿司は白米150g相当の握り寿司10貫とします。food-hack.comから、寿司盛り合わせは1食390g、糖質84gでGL40gというデータが報告されています。糖質55gの白米は150g(GL値41)なので、ここの寿司盛り合わせの寿司めしとしては、ざっと150×84÷55=230g。ざっくり計算すると、寿司めし量(g)が減るので、握り寿司10貫のGL値は40×55÷84=26gとなります。白米のGL値が41ということを考えると、寿司ネタによるインスリン追加分泌の賜物です。
◆フィッシュバーガー(GL値23)VS. ハンバーガー(GL値21)
ハンバーガー1個57g、フィッシュバーガー1個185gで比較します。肉より魚のほうがヘルシーで体によさそうですが、フィッシュバーガーは具材の白身魚に小麦粉の衣をつけて揚げているため、僅差ですが、ハンバーガーの勝利。タルタルソースはその原料が玉ねぎやマヨネーズなどから作られるため、ブドウ糖の心配はありません。
GL値の比較:おかずの場合
◆ハンバーグ(GL値9)VS. メンチカツ(GL値20)
メンチカツ(2個)とハンバーグ(1個)は、ともに分量150gで挽肉を使っていますが、小麦粉の衣をつけて揚げるという点で、GL値にダブルスコア以上の差がついています。お互いの調味料の差は無視できます。
◆チキンナゲット(GL値7)VS. ギョーザ(GL値15)VS. ギョーザの皮のみ(GL値22)
ギョーザ約6個分、チキンナゲット約5個分で比較。ギョーザの皮に使われている小麦粉の量が、チキンナゲットより多い分、ギョーザのほうが血糖値上昇に悪影響をおよぼします。ただしギョーザの皮だけだとGL値22とむしろ高くなる。キャベツや挽肉による効果のためです(【⇒関連記事:「高GI食品=食べちゃダメ」とは限らない!「OK食品、NG食品」がわかる“現実的な指標”】)。
◆ポテトコロッケ(GL値16)VS. えびフライ(GL値10)
えびフライ(大2本)はえびに小麦粉とパン粉をまぶしているため高糖質ですが、救いは具材のえびがタンパク質という点です。一方ポテトコロッケ(中1個)は、糖質の多いじゃがいもに衣をつけて揚げる、カーボonカーボのダブルパンチ!
このように、炭水化物主体の食材を理解できれば、料理中のブドウ糖換算量は簡単に計算できます。
糖尿病専門医によってかつて検討されたテストミール負荷試験の結果から、私見としてですが、
ⅰ)糖尿病の方の1食分はwtGL40以下
ⅱ)境界型糖尿病の方の1食はwtGL50以下
から始めるようにアドバイスしています。そのほかの工夫として、ゆっくり食べたり、野菜やタンパク質などを先に食べたり、食後の運動の工夫をするなど、総合的かつ簡単にできることを実行してください。糖尿病治療では薬は脇役、主役はあなたです。
團 茂樹(だん しげき)
宇部内科小児科医院 院長
総合内科専門医
日本大学医学部附属病院で血液のガン治療に従事した後、自治医科大学へ国内留学、基礎研究分野の経験を経て大学病院や地方病院に勤務。その後、遺伝子研究の本場・カナダオンタリオ州立ガンセンターで遺伝子生物学に関する基礎研究に従事。帰国後、那須中央病院の内科部長を経て、宇部内科小児科医院副院長に就任。その後3年間、千代田漢方クリニック院長を兼任。
以来16年余り漢方治療を導入。2010年から現職。2015年に総合内科専門医を取得。総合臨床医として様々な症例に携わるとともに、臨床で培った経験や医療情報の中から選りすぐったアドバイスを行うダイエット法には定評がある。
著書に『糖尿病は炭水化物コントロールでよくなる』(2022年6月刊行、合同フォレスト)がある。