(写真はイメージです/PIXTA)

米国での金融引き締めや、中国の不動産バブル崩壊、ウクライナ侵攻によるエネルギー価格の高騰……2022年は世界経済にとって大打撃となる出来事が多く、「大不況になって当然」の1年でした。しかし、さまざまな理由からそのような事態にならなかったと、株式会社武者リサーチ代表の武者陵司氏はいいます。2022年の世界経済が活力を失わなかったワケをみていきましょう。

「好循環」のドル高に死角はあるか?

姿を見せ始めたドルの「帝国循環」

かくしてドル高が米国の輸入増加(=米国の債務増加)、世界成長の加速と資本の米国への集中という好循環を引き起こし始めている。

 

ドル高(orドル相場の高水準での安定)が続く限り、この好循環は米国中心の世界経済繁栄を持続させるものとなる。筆者は2007年、東洋経済新報社より発行した『新帝国主義論』の第4章「地球帝国循環の成立とドル体制」でこのことを分析した。

 

「経済の長期繁栄には、それを持続可能にするメカニズムである所得と資本の循環が不可欠である。

 

パックス・ブリタニカ、パックス・アメリカーナ第1期(1950~1970年代)にはそれぞれの繁栄を支えた資金循環のパターンが形成されたが、パックス・アメリカーナ第1期に続く混乱期を経て、1990年代末から新たな安定の資金循環、地球帝国循環が姿を現し始めた」と主張した。

 

いまはその延長上にあると考えられる。

 

死角1.米国企業の競争力低下→当面大丈夫

このようにいいことずくめのドル高だが、2つの死角がある。第1は、米国企業の価格競争力の低下である。

 

それが顕在化した時ドル高にブレーキがかかるが、いま、米国企業が他国と価格で競争をしている品目は自動車などごくわずかである。米国製造業の大半は相手国が作っていない技術・非価格競争優位のある商品であり、ドル高になっても競争力が低下する恐れは小さい。

 

[図表9]にみるようにいまや米国国内の財需要に対する輸入依存度は、1970年初めの10%程度から80%へと上昇し、ほとんどの製品において米国国内に生産企業は存在していない。

 

インターネットプラットフォーマーGAFAMなど海外に競合企業がない場合、ドル高による現地コストの上昇は現地販売価格の引き上げで対応でき、米国の対外所得(=ドルベースでの収入)は変わらない。

 

[図表9]米国における財輸入依存度と輸出比率の推移

 

死角2.支払い利息のスパイラル的増加→当面不安なし

第2の死角は、米国債務の累増による支払い利息・配当の増加である。

 

米国の対外赤字は過去40年累計で13兆ドル超に達しているので、現在の長期金利4%の利子が発生するとすれば年間5,330億ドルの対外支払い(一次所得のマイナス)となり、スパイラル的な債務増加の蟻地獄にはまっているはずなのに、そうなっていない。

 

米国は膨大な対外純債務国であるが、支払い利息を含む一次所得収支は1750億ドルの黒字なのである。米国は世界で唯一債務に対してコストを払っていない国といえる。

 

基軸通貨発行国なので、シニョリッジが働くこと、米国企業の海外収益性が高く、海外企業の在米収益性が低いこと[図表11]などの事情が働いていると思われる。これらの結果米国は太っ腹に対外債務(=ドル発行)を増やし、世界経済成長をけん引できているのである。

 

このドル発行にまつわる米国の強さこそ、覇権国米国の秘密兵器に他ならない。米国は最優先課題である米中覇権争いに際して、この特権を最大限に活用しようとするはずである。

 

[図表10]米国一次所得収支と累積経常収支推移

 

[図表11]米国対外投資収益率と対内投資収益率推移

 

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※本記事は、武者リサーチが2022年12月1日に公開したレポートを転載したものです。
※本書で言及されている意見、推定、見通しは、本書の日付時点における武者リサーチの判断に基づいたものです。本書中の情報は、武者リサーチにおいて信頼できると考える情報源に基づいて作成していますが、武者リサーチは本書中の情報・意見等の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。かかる情報・意見等に依拠したことにより生じる一切の損害について、武者リサーチは一切責任を負いません。本書中の分析・意見等は、その前提が変更された場合には、変更が必要となる性質を含んでいます。本書中の分析・意見等は、金融商品、クレジット、通貨レート、金利レート、その他市場・経済の動向について、表明・保証するものではありません。また、過去の業績が必ずしも将来の結果を示唆するものではありません。本書中の情報・意見等が、今後修正・変更されたとしても、武者リサーチは当該情報・意見等を改定する義務や、これを通知する義務を負うものではありません。貴社が本書中に記載された投資、財務、法律、税務、会計上の問題・リスク等を検討するに当っては、貴社において取引の内容を確実に理解するための措置を講じ、別途貴社自身の専門家・アドバイザー等にご相談されることを強くお勧めいたします。本書は、武者リサーチからの金融商品・証券等の引受又は購入の申込又は勧誘を構成するものではなく、公式又は非公式な取引条件の確認を行うものではありません。

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