(写真はイメージです/PIXTA)

米国での金融引き締めや、中国の不動産バブル崩壊、ウクライナ侵攻によるエネルギー価格の高騰……2022年は世界経済にとって大打撃となる出来事が多く、「大不況になって当然」の1年でした。しかし、さまざまな理由からそのような事態にならなかったと、株式会社武者リサーチ代表の武者陵司氏はいいます。2022年の世界経済が活力を失わなかったワケをみていきましょう。

“想定外のドル高”がもたらした他国への「恩恵」

鍵は想定外のドル高にある。為替理論では説明できないドル高が進行した。

 

1.インフレ高進(=通貨価値減価)の下でのドル高が進んだ。
2.米国金利急上昇とはいえコアCPIが6%と高進しており、名目10年債利回り4%弱、つまり実質金利は2%を超える大幅マイナスのなかでのドル高が進行した。
3.また米国経常赤字は1兆ドル(対GDP比4%)と急拡大するなかでドル高が進んだ。

 

為替モデルで通貨予測をしてきた人々にとっては、説明がつかないドル急伸であった[図表3、4参照]。

 

[図表3]ドル円レートと日米実質短期金利差推移

 

[図表4]ドル円レートと日米マネタリーベース倍率推移

 

しかし結果オーライ、ドル高による米国への資金流入は、米国長期金利を押し下げ、米国の輸入インフレを引き下げて実質購買力を押し上げ、対米輸出増加というエンジンを多くの新興国や資源国に与えた。

 

因果関連でいえば、米国資金流入が米国のISインバランス(貯蓄を大幅に上回る過剰(?)消費)を推進して世界成長をけん引したといえるだろう。

 

[図表5]にみるように米国の対外赤字は、対中で減少に転じているのに、メキシコ、ベトナム、カナダ、アイルランドなどに対して大きく増加し、米国の経常赤字は年率1兆ドルベース、対GDP比で4%に達している。

 

[図表5]米国相手国別貿易赤字推移

 

[図表6]は米国の経常赤字の対GDP比とそのなかの対中赤字対GDP比だが、対中以外で大きな赤字が発生していることが鮮明である。米中対立下で、中国以外の対米輸出拠点が大きく成長していること(米中摩擦のプラス効果)が窺われる。

 

[図表6]米国経常収支対GDP比-うち対中国

 

[図表7]米国経常収支対GDP比

 

[図表8]主要国の経常収支累積額(1980~2021年)

ドル高は世界経済にとって「いいことづくめ」

I.輸入価格下落により大幅な差益(交易利得)が発生するが、それは輸入物価低下によりインフレが抑制され実質所得を押し上げることで実現する。米国は年間2.8兆ドル(364兆円)の財輸入がある。前年比10%のドル高は2800億ドルの輸入価格低下効果をもたらす。

 

米国の年間消費額は17兆ドルなので、それがすべて消費物価に反映されると仮定すれば、消費者物価を最大限1.3%押し下げる(=実質購買力を押し上げる)効果をもたらす。

 

Ⅱ.また海外からの資金流入が米国長期金利を抑制し、需要を喚起する。

 

Ⅲ.さらに米国の対外投資力を増幅させ、米国の世界でのプレゼンスを高め、競争相手である露中の地位を低下させる

 

などドル高はいいことづくめである。

 

同時に、ドル高は世界経済にとっても好都合といえる。需要不足の世界に対して米国消費を喚起し需要を追加提供する手段なのである。

 

次ページ「好循環」のドル高に死角はあるか?

※本記事は、武者リサーチが2022年12月1日に公開したレポートを転載したものです。
※本書で言及されている意見、推定、見通しは、本書の日付時点における武者リサーチの判断に基づいたものです。本書中の情報は、武者リサーチにおいて信頼できると考える情報源に基づいて作成していますが、武者リサーチは本書中の情報・意見等の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。かかる情報・意見等に依拠したことにより生じる一切の損害について、武者リサーチは一切責任を負いません。本書中の分析・意見等は、その前提が変更された場合には、変更が必要となる性質を含んでいます。本書中の分析・意見等は、金融商品、クレジット、通貨レート、金利レート、その他市場・経済の動向について、表明・保証するものではありません。また、過去の業績が必ずしも将来の結果を示唆するものではありません。本書中の情報・意見等が、今後修正・変更されたとしても、武者リサーチは当該情報・意見等を改定する義務や、これを通知する義務を負うものではありません。貴社が本書中に記載された投資、財務、法律、税務、会計上の問題・リスク等を検討するに当っては、貴社において取引の内容を確実に理解するための措置を講じ、別途貴社自身の専門家・アドバイザー等にご相談されることを強くお勧めいたします。本書は、武者リサーチからの金融商品・証券等の引受又は購入の申込又は勧誘を構成するものではなく、公式又は非公式な取引条件の確認を行うものではありません。

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