まったく新たな「ドル安定の時代」へ
このようにドルが辿り着いた新境地は、これまでの為替論議がまったく想定してこなかったもの、市場参加者もアカデミズムにとっても、未踏の新領域である。
これまで多くの論客がその時代のドルと円を巡る思想をリードする分析を提示し、市場参加者に新たな知見を示した。
巨額の対外債務の下でドル高は持続可能ではないと主張したポール・クルーグマン氏(“Sustainability and the Decline of the Dollar” 1985年)、対米大幅貿易黒字の日本は輸入障壁を撤廃しない限り為替市場は際限のない円高で反応すると主張したリチャード・クー氏(「良い円高悪い円高」1994年)、
累積債務で紙くずになるはずのドルを、貿易黒字を積み上げることでため込んでいる日本経済の愚を批判した吉川元忠氏(「マネー敗戦」1998年)、三國陽夫氏(「黒字亡国」2005年)などは、歴史に残る分析である。
しかしいま我々はまったく次元の異なる、新たなドル安定の時代に立ち至っている。
武者 陵司
株式会社武者リサーチ
代表