1. 不動産投資の利回りとは
まず、不動産投資における3種類の「利回り」について、何を示す数字なのか、どのように計算するのかを解説します。
不動産投資において、知っておくべき「利回り」は以下の3種類です。
- 表面利回り
- 実質利回り
- 返済後利回り
あらかじめお伝えしておくと、このうち、最も重要なのは「実質利回り」です。以下、それぞれについて、どういう意味をもつ数字で、どのように計算するのか、解説します。
1.1. 表面利回り|物件比較の指標に使う
表面利回りとは、年間の賃料収入が投資金額(物件の購入価格)の何%かを示すものです。「グロス利回り」とも呼ばれます。計算式は以下の通りです。
表面利回りが用いられる場面は、もっぱら、他の物件と比較するときです。
どういうことかというと、不動産投資においては、賃料収入が入ってきたら、そこから諸経費や固定資産税等が差し引かれます。また、空室が出る可能性もあります。表面利回りはそれらの要素をいっさい計算に入れていないので、それ単体では収益性がわからず、投資の是非を決める判断材料としては使えません。
なお、表面利回りのなかでも、空室を計算に入れていないものを「想定利回り」といいます。賃貸に出していない物件や、空室の物件の場合は、この想定利回りが使われます。実際の相場を反映しているとは限らないので、要注意です。
1.2. 実質利回り|投資の是非の判断材料となる
実質利回りは、賃料収入だけでなく、経費等の支出や空室リスクも計算に入れて、どれくらい手残りがあるかを示すものです。「ネット利回り」「NOI(Net Operating Incom)利回り」とも呼ばれます。
実質利回りは、投資対象となる不動産物件の収益性を的確にあらわす「利回り」であり、投資の是非を判断する際の有力な判断材料となります。計算式は以下の通りです。
経費には主に以下のものが算入されます。
- 管理費
- 管理委託手数料
- 修繕費
- 修繕積立金
- 火災保険料
- 固定資産税、都市計画税等
これらの費用等を考慮に入れて計算した実質利回りがプラスであれば、収益性があるということになります。ただし、不動産業者によっては、経費の一部を計算に入れていない場合や、空室率を加味していない場合がありますので、つど確認する必要があります。
1.3. 返済後利回り|ローン返済を加味した数字
さらに、ローンを利用している場合は、「返済後利回り」も重要です。
不動産投資では、多くの場合、レバレッジを効かせるため、ローンを利用しています。その場合、毎月「元金+利息」を返済しなければなりません。このローンの返済を加味した手残りをもとに計算した利回りを「返済後利回り」といいます。
キャッシュフローに着目した概念なので「キャッシュフロー利回り」とも呼ばれます。
返済後利回りは、ローンの融資条件によって異なります。
すなわち、ローンの融資条件の要素は「借入額」「金利」「返済期間」の3つです。いずれも、物件の収益性と、ローン借主の属性(職業・勤務先、年収・保有金融資産、不動産投資の経験等)によって決まります(詳しくは「不動産投資でローンを活用するメリット・注意点と審査におけるポイント」をご覧ください)。
不動産投資におけるローンの特徴は、住宅ローンと異なり、物件の収益性が重要な判断材料になるということです。したがって、返済後利回りは、ローンの借入にある程度めどがついた段階で最終的に投資の是非を決める判断材料となります。
2. 利回りの根拠「収益性」を必ず確認する
2.1. 提示された利回りが実情を反映しているとは限らない
利回りはあくまでも計算上の数字であり、そのまま鵜呑みにすべきものではありません。なぜなら、なんらかのマイナス事情により、利回りが本来の適正水準より高めに算出されている可能性があるからです。たとえば、以下のようなケースが考えられます。
【ケース1】算定の基礎が誤っている
- 築古で新築のときより賃料が下がっているにもかかわらず、新築当初の賃料で利回りを計算している
【ケース2】物件が「訳あり」である
- 建物、設備が老朽化していて、購入後にリフォーム等の多額の支出が必要になったり、あるいは賃料の値下げをしなければならなくなったりすることが予想される
- 入居者が不慮の死を遂げたなどの事情により事故物件である
- 建築基準法等との関係で問題がある
したがって、重要なのは、提示された利回りの数字それ自体ではなく、その数字の客観的根拠、すなわち物件自体の収益性を見極めることです。
2.2. 物件の収益性を確認する際に注目すべきこと
たとえば、既に入居者がいるのであれば、実際の空室状況を確認する必要があります。また、周辺の賃料相場や固定資産税評価額等の物件情報も収集し、利回りが近隣の同種の物件と比べて不自然に乖離していないかチェックしなければなりません。
事故物件かどうかは、その道の専門サイト「大島てる」で確認できます。また、仲介業者に直接問い合わせれば、告知義務を負っているので教えてもらえます。
物件がある地域における人口動態、家族構成等のデータも確認し、将来にわたってその地域における賃貸のニーズが続くかを予測することも重要です。
さらに、実際に現地へ行って物件の内覧等により現況を確認することはもちろん、周辺の環境、交通の便等を確認する必要があります。
これらのことは、ノウハウのない初心者にはやや荷が重いかもしれません。周りで既に不動産投資で成功している人や、信頼できる専門家の知見を借りることをおすすめします。
3. 不動産投資の利回りのおおまかな相場・目安を知るには
次に、不動産投資の利回りの相場・目安を知る方法について解説します。
上述のように、不動産投資の利回りは、本来、物件ごとに様々な客観的・外部的事情をもとに判断すべきものです。しかし、物件のタイプごと、地方ごとの相場を知っておいて損はありません。
3.1. 物件のタイプごと・都道府県ごとの利回りの目安を知るには
まず、物件のタイプごと、都道府県ごとの利回りの平均値を知りたいのであれば、おすすめなのが、不動産投資の専門サイト「健美家」が毎月公表している「収益物件 市場動向マンスリーレポート」です。
同サイトに登録された収益物件を「区分マンション」「一棟アパート」「一棟マンション」に分類し、それぞれについて表面利回り、物件価格の平均値を算出し、公表しています。また、過去の月ごとの推移も確認できます。
3.2. 投資家の「期待利回り」の目安を知るには
次に、一般財団法人 日本不動産研究所が年2回行っている「不動産投資家調査」では、賃貸住宅(1棟もの)について「ワンルームタイプ」と「ファミリータイプ」に分け、主要都市ごとの投資家の「期待利回り」の数値を公表しています。
期待利回りとは、投資家が「このくらいの利回りであれば投資していいかな」ととらえている表面利回りの数値です。いわば人気投票のようなもので、客観的な根拠は希薄ですが、参考程度には役に立ちます。
4. 利回りだけでなく後の「売却」まで視野に入れる
4.1.「物件を売却し終えるまでが不動産投資です」
最後に、見落としがちですが、投資には資産を保有することによる収益(インカムゲイン)と、売却することによる収益(キャピタルゲイン)があります。
不動産投資は、賃貸収入による利回りだけでなく、収益を得たあとで物件を売却して投下資本を回収するところまで計算に入れておく必要があります。
賃貸による収入(インカムゲイン)がプラスであっても、売却した際の売却益(キャピタルゲイン)があまりにマイナスだと損をする可能性があるということです。「家に帰るまでが遠足です」という名言がありますが、それと同じで、「物件を売却し終えるまでが不動産投資です」ということです。
4.2.「売り時」のターニングポイントを押さえる
投資物件をいつ売るかをあらかじめ決めておくことは難しいかもしれません。しかし、売り時を考えるうえで、最低限、以下の2つのターニングポイントがあることを知っておく必要があります。
- 物件購入から5年以上経過した時点
- ローンの元金返済額が減価償却費を上回る時点(デッドクロス)
第一に、物件購入から5年以上経過すると、譲渡益への課税における税率が20%と軽くなります(長期譲渡所得)。したがって、この時点で売却することが考えられます。
第二に、ローンを利用した場合、ローンの元金返済額が減価償却費を上回ると、所得税・住民税の負担が大きくなります。「デッドクロス」と呼ばれる状態です。その時点で売却することが考えられます。
4.3. いくらで売れるか予想する
将来、物件がいくらで売れるかを、客観的なデータによりある程度予想することをおすすめします。
たとえば、近隣の条件が類似の物件の情報を集め、築年数ごとの価格を比較するのです。「築10年」、「築20年」、「築30年」と比較していくと、価格がどのように推移していくか、ある程度予想をつけることができます。
まとめ
不動産投資を行うか否かを判断する要素として、利回りは最も重要な要素です。特に、「実質利回り」は賃料収入のみならずそこから差し引かれる各種費用等を計算に入れたものであり、収益性を判断するために必須です。
また、ローンを利用する場合は「返済後利回り(キャッシュフロー利回り)」も考慮する必要があります。
ただし、利回りはあくまでも計算上の数字にすぎないので、本来の適正水準に即したものであるか、客観的根拠、すなわち物件の収益性を確認する必要があります。そのためには、物件自体を確認するのはもちろん、近隣の賃料相場や人口動態・世帯構成、周辺の環境や交通の便についてもチェックすることが大切です。
さらに、利回りだけでなく、投下資本の回収、つまり、最終的に物件を売却するときにいくらで売れるかということも考慮する必要があります。