はじめに|不動産投資の失敗の根源的要因
◆不動産業者や成功者の言葉を鵜呑みにしてはならない理由
不動産投資に失敗する原因の多くは、不動産業者や周囲の成功者の話を鵜呑みにし、よくわからないまま投資してしまうことにあります。
不動産投資の収益構造やリスクの吟味が不十分なまま、なんとなく物件を購入してしまうと、ほぼ確実に失敗します。
不動産投資でよく強調される「メリット」には以下のようなものがあります。
- 「不労所得を得られる」
- 「生命保険代わりになる」
- 「年金代わりになる」
- 「節税になる」
- 「利回りが高い」
いずれも、決して間違いではありません。しかし、注意しなければならないのは、これらの表現はすべて、不動産投資の一面だけをことさらに強調したものであり、本質をとらえたものではないということです。
◆不動産投資の本質を理解すれば失敗パターンも見えてくる
不動産投資を一言でいえば、不動産を購入し、賃貸して収益(賃料収入)を獲得し、売却して代金収入を得ることです。すなわち、以下の3つのプロセスを経ることになります。
- プロセス1:不動産物件の購入
- プロセス2:不動産物件の賃貸(賃料収入の獲得)
- プロセス3:不動産物件の売却(代金収入の獲得)
これら3つのプロセスのすべてで、お金が入ってくるだけでなく、自分の懐からお金が出ていくということです。たとえば、ローンを借りれば毎月の返済額(元本+利息)が発生します。また、物件は経年劣化するので修繕費・改修費等がかかります。
さらに、以下のような外部的要因が「入ってくるお金」と「出ていくお金」の双方に影響を与えます。
【不動産投資の収支に影響を与える外部的要因】
- 賃料相場の変動
- 不動産需要の変動
- 不動産価格の変動
- 自然災害・天変地異
- 賃借人の属性・行動
まとめると、不動産投資で失敗しないために考慮すべき要素は大まかに以下の3つです。
【不動産投資で失敗を避けるため考慮すべき要素】
- 賃料収入・売却代金収入
- 必要な支出
- 外部的要因
このことをきちんと理解していれば、恣意的でない正確かつシビアな数字をもとに投資の是非を判断し、失敗を未然に防げる可能性が高まります。
以上を踏まえ、典型的な8つの失敗パターンそれぞれについて、内容、発生原因、回避する方法を解説します。
失敗パターン1|「表面利回り」だけの判断で投資を決めてしまった
1.1.「賃料」のみで利回りを判断する愚
たとえば、不動産業者から、「物件価格が3,000万円、賃料月額15万円なので年利回りは6%です。」などといわれることがあります。これは以下の計算に基づくものであり「表面利回り」といいます。
【表面利回りの計算式】年間賃料収入 ÷ 物件価格 × 100(%)
しかし、この「表面利回り」は、投資の是非を判断する場面ではまったく使い物になりません。
前述のように、不動産投資においては「収入」「支出」およびそれらに影響を与える「外部的要因」をすべて考慮しなければなりません。それらを含めると、マイナスになってしまう可能性があります。
1.2. 対処法|利回りは「実質利回り」「キャッシュフロー利回り」で判断する
実際には、賃料収入が入ってきたとしても、以下のような支出があります。
【不動産を賃貸する場合に必要な支出】
- 管理費
- 管理委託手数料
- 修繕費
- 修繕積立金
- 火災保険料・地震保険料
- 固定資産税
これらを賃料の額から差し引いて算出された利回りを、「実質利回り」といいます。この実質利回りが「トントン」だったり「マイナス」だったりすれば、不動産投資を行うメリットはありません。
また、ローンを借りた場合には毎月の返済額(元本+利息)が発生します。各種費用に加えローン返済額も差し引いて算出される利回りを「キャッシュフロー利回り(返済利回り)」といいます。
したがって、利回りの是非を判断する場合は最低限「実質利回り」「キャッシュフロー利回り」を見なければなりません。
なお、ここにさらに「外部的要因」がからんできますが、それは今後の失敗パターンの項において解説します。
不動産投資における利回りについては、詳しくは「不動産投資の利回りとは?計算方法、見方、相場と注意点」をご覧ください。
失敗パターン2|運用目的が不明確、あるいは見失った
2.1. 運用目的があやふやだと確実に損をする!
不動産投資にも様々な方法があり、目的に応じて物件の向き不向き等が異なります。
たとえば、「節税」を目的とするならば、最適なのは、後述しますが「木造・築22年超」の中古物件です。
逆に、老後に年金の代わりに安定的に賃料収入を得ていきたい場合は、賃貸住宅の需要が将来にわたり計算できるエリアの、築年数が比較的新しい鉄筋コンクリート造等の頑丈な物件が向いています。
そういった目的を設定することなしに投資対象を選ぶと、思うような「収入」が得られなくなってしまったり、あるいは意図した「節税」ができなくなったりして、失敗する可能性が高いといえます。
2.2. 対処法|将来を見据え、運用目的をはっきりさせてから物件を選ぶ
不動産投資は、ある程度の長期間にわたる資産運用であり、まとまった資本を投下するものです。したがって、今後、どのような人生を送りたいのか、お金がいつどれくらい必要になるのか、といったことを考え、それに最も適した運用目的を設定する必要があります。
たとえば、老後、20年~30年間にわたって安定的に賃料収入を得ていきたいのであれば、賃料はどれくらい必要なのか、そのエリアでの賃貸ニーズが将来にわたって衰えることがないか、等の考慮しなければならない要素が明らかになってきます。
そうすれば、どのような物件を選ぶべきかはおのずと決まってくるので、失敗を回避できる可能性が高まります。
失敗パターン3|空室リスクの考慮が不十分
3.1.「空室リスク」を吟味しないと失敗する
空室リスクとは、借り手がつかないことによって、予定されていた賃料が得られないリスクをさします。
空室が発生した場合、諸費用やローンの返済額等の支出を差し引いた手残りが少なくなったり、マイナスになったりしてしまいます。
3.2. 空室リスクを最小限に抑える方法
空室リスクをゼロにすることは不可能ですが、できるだけ抑えるようあらかじめ対策することはできます。
一つの方法として、中古物件であれば「空室率」を確認することができます。しかし、これは万全ではありません。たとえば社宅等の目的による「借り上げ」が満期を迎え更新されない場合等、間近なタイミングで一気に空室が発生する可能性があります。
そこで、おすすめなのが、借り手がつかない可能性を一つ一つ吟味して潰していくことです。想定される「借り手がつかない原因」に即し、以下の2つを吟味する必要があります。
- 物件自体の魅力
- 周辺エリアでの賃貸物件のニーズ
3.2.1. 物件自体の魅力の吟味
第一に、物件自体の魅力を吟味することです。たとえば、「エレベーターなし」「バス・トイレが3点式ユニットバス」「バランス釜の風呂」などの物件は不人気であり、賃料を抑えなければならないことがあります。
また、条件が同程度の他の物件より賃料が割高だと、それも物件の魅力を損なう要因になります。周辺の物件と比べて賃料の相場が適切かどうか確認する必要があります。
さらに、将来、近くに同種の新築の賃貸物件が立った場合、魅力の点で負け、入居者をそちらに取られる可能性や、賃料を引き下げざるをえなくなる可能性があります。これは予測困難なので、事前の収支のシミュレーションにおいて、空室率の上昇・賃料の引き下げを織り込んで試算することをおすすめします。
3.2.2. 周辺エリアでの賃貸物件のニーズの吟味
第二に、周辺エリアにおける賃貸物件のニーズを吟味することです。駅までの距離、通勤圏・通学圏へのアクセス、学校や公園等の子育て環境、治安の状況等を確認する必要があります。
また、要注意なのが、現時点でニーズがあるからといって、その状態が将来にわたって続くとは限らないということです。たとえば、高齢化が進んでいるエリアの場合、将来、人口激減する可能性があります。したがって、人口動態や家族構成等も確認する必要があります。
なお、不動産業者が全室を一括して借り上げる「サブリース」の特約がついていることがあります。事実上、「満室保証」と同じ効果があります。しかし、優良物件にはサブリースの特典を設ける必要性が乏しいので、何らかの「訳あり」の物件と考えたほうが無難です。
失敗パターン4|賃料滞納トラブル
4.1. 賃料滞納への対応で思わぬ大損失を被ることも
入居者がいても、賃料の滞納が度重なると、本来入ってくるべき収入が得られないことになります。
しかし、賃料債権自体は発生しているので、売上として計上せざるを得ず、賃料相当額にかかる所得税・住民税は支払わなければなりません。
また、賃料不払いを理由とする解除については「信頼関係破壊理論」とよばれる判例法理によって厳格に制限されており、滞納が最低でも3ヵ月は継続しなければ認められません。さらに、強制的に立ち退いてもらうには、裁判の確定判決等の「債務名義」を得なければなりません。それには費用も時間もかかります。
4.2. 賃料滞納トラブルを回避する方法
賃料滞納トラブルを回避するには、入居者の属性について十分に注意を払うのはもちろんのこと、「賃料保証会社」を利用することをおすすめします。
賃料保証会社は、賃料滞納があった場合も賃料を代わりに支払ってくれます。その代わりに、保証会社が入居者に対し自己の名義で賃料相当額を請求し、訴訟まで遂行します。保証料は賃借人の負担です。
なお、近年は少なくなってきましたが、「連帯保証人」を立ててもらう方法もあります。
失敗パターン5|「節税」のみを目的に投資して損失を被った
不動産投資のメリットとして「節税」の効果があるといわれます。
節税効果についてごく簡単に説明すると、以下の2段階によって、所得税・住民税が抑えられるということです。
【不動産投資が節税になるとされるしくみ】
- 建物の「減価償却」により不動産所得の損失を計上する
- 不動産所得の損失を他の所得から差し引く(損益通算)
減価償却とは、「不動産所得」の計算上、建物の代金について、複数年に分けて経費として計上していくものです。減価償却の処理を行うと、キャッシュは1円も出ていかないのに、まとまった経費を計上できます。その結果、収益を得ているにもかかわらず税金が抑えられることになります。
減価償却の期間が短いと、単年度に大きなマイナスを計上できることになります。
そして、不動産所得のマイナスは、他の所得のプラスから差し引くことが認められています。これは損益通算といいます。
たとえば、不動産所得の計算上、減価償却により500万円のマイナスが出た場合、給与所得の金額がプラスであれば、損益通算により差し引くことができます。
最も短期で大きな減価償却費を計上できるのは、4年で償却できる「木造・築22年超」の物件です。
詳しくは「不動産投資が節税になるしくみ|対象となる物件の選び方とメリット、注意点」をご覧ください。
しかし、いかに節税が目的であっても、賃料収入と売却代金収入まで考慮に入れてトータルでマイナスになってしまえば、不動産投資としては失敗です。
よい物件を選ばないとキャッシュベースの収支もマイナスになってしまうということです。したがって、あくまでも、「投資」としてプラスになるかを吟味しなければなりません。利回り、空室リスク等を考慮して、トータルでプラスが得られるかを慎重に吟味する必要があるということです。
失敗パターン6|ローンの返済計画が狂った
6.1. ローンの負担が重くなってしまった・払えなくなってしまった
不動産投資においては、収益に「レバレッジ」をかけるという意味でローンの活用が推奨されることがあります。
ローンを借りたあとで、下記のような要因により、ローンの負担が重くなってしまったり、払えなくなってしまったりする可能性があります。
【ローンの負担が重くなる、または払えなくなる要因】
- もともとの返済計画に無理があった
- 収益が思うように得られなくなった
- 金利が上昇した
- 働けなくなった、あるいは死亡した
6.2. ローンの返済危機を未然に防ぐポイント
ローンの返済計画が狂うのを避けるには、そもそも無理のない計画を立てなければならないのは当然の前提です。
また、収益が思うように得られなくなることは、もっぱら空室リスクによるものなので、先述したような空室リスクへの十分な対処が必要です。
金利の変動については、将来予測が困難です。金利が2%程度上昇する可能性をあらかじめシミュレーションに織り込むか、返済期間を短くするために頭金を大きくしたり繰り上げ返済したりするなどの工夫が必要です。
働けなくなるリスク、死亡のリスクについては、「団信(団体信用生命保険)」または「収入保障保険」に加入し、就業不能もカバーする特約を付けることでカバーすべきです。
失敗パターン7|修繕・管理費用の負担が予想外にかさんだ
よくあるのが、マンション購入直後に大規模修繕が行われ、既存の「修繕積立金」が足りなかったせいで多額の持ち出しが必要になったというケースです。
これに対しては、物件の築年数だけでなく、最低限、以下の事項について確認することが必要です。
- 給排水設備等を含めた維持管理の状況は良好か
- 直近にいつ、どのような修繕が行われたか
- 近い将来に大規模修繕が行われる予定があるか
- 大規模修繕の予定がある場合に費用がいくらかかる見込みか
- 既存の修繕積立金の額が十分か
なお、修繕積立金については少し補足しなければなりますまい。修繕積立金は、将来の大規模修繕工事に備えるためにマンションの区分所有権者が積み立てるお金です。既存の修繕積立金の額が十分であればよいのですが、不十分なケースが多くなっています。
その原因は、多くの場合、新築時に比べて修繕にかかるコストが上昇しているにもかかわらず、修繕積立金の増額にマンション管理組合の議決が必要でなかなか増額がままならないという実態にあります。
失敗パターン8|思った価格で売却できなかった
8.1. 売却価格が低すぎてトータルで損をすることも
物件を売却する段階になって、物件価格が購入時より著しく値下がりしてしまうリスクがあります。
それでも、賃料収入とあわせたトータルで収支がプラスならばいいのですが、マイナスになってしまう可能性もあります。
8.2. 値下がりリスクを回避する方法
将来のことは不確定要素が多いので、そのような事態を完全に回避することは困難といわざるをえません。しかし、ある程度予測をすることは可能です。
まず、「3.2. 空室リスクを最小限に抑える方法」のところで解説したように、将来にわたって賃貸ニーズが続くことが見込まれるのであれば、著しく値下がりしてしまうリスクは比較的低いと考えられます。したがって、物件があるエリアの将来の人口動態や家族構成等を確認することが大切です。
そのうえで、将来にわたる物件価格の推移を、近隣の類似の物件の情報から推測することも有効です。類似の物件の築年数ごとの価格を「築10年」、「築20年」、「築30年」と10年刻みで確認すれば、将来、築年数が長くなるにしたがってどのように価格が推移していくのか、ある程度予測することができます。
まとめ
不動産投資に失敗する典型的な8つのパターンについて、その内容と原因、対処法を解説してきました。
決して不動産業者等の言葉を鵜吞みにせず、最低限、本記事で説明した内容を押さえたうえで、客観的事実や数値をもとに、できれば信頼できる専門家にも相談し、慎重に吟味して決断することをおすすめします。