一方的な押しつけになっていないか、考える機会を持つ
子育ての確証バイアスから抜け出すためには、「子どものため」と思ってやっているあれこれが押しつけになっていないか、検討する機会を持つことが大事です。難しく考える必要はありません。夫婦で、保護者間でよく話し合えばいいのです。自分以外の人の見方、考え方を知ることで、バイアスに気づけるかもしれません。家族の中でなら、思い込みに対する指摘もできるのではないでしょうか。
たとえば、妻は「子どもにはいろいろな習い事をさせたい。子どもの能力を伸ばすため、最初のきっかけは親が与えるべき」と思っているとします。一方で、夫は「習い事で忙しく、友だちと遊ぶ時間が減るのはかわいそうだ。このくらいの年齢の子にとって、自由に遊ぶ時間が何より大切だ」と思っている。
よくあるケースです。夫婦で話し合うことで、お互いに「確かにそういう考え方もあるな」と思い、ちょうどいいところを見つけられれば最高でしょう。子どもも、自分のために両親が話し合いながら考えてくれていると感じられます。話し合うというプロセス自体が重要です。
最悪なのは、それぞれが別の方針で子どもに向かうことです。
「お母さんはああ言っているけど、お父さんはこう思うぞ」と子どもに言う家庭がありがちですが、子どもは混乱します。ある程度までは「お母さんに見せる顔」「お父さんに見せる顔」と使い分けようとします。しかし、いつまでも続けられるわけがありません。子どもにとって大きなストレスとなり、いつか爆発することになります。
少年院に入った子の保護者に対するアンケート(図表2)では、子育ての問題として「夫婦の子育ての方針が一致していなかった」が高い比率で選択されています。
また、もっとも多いのは「子供に口うるさかった」というもので、母親の約7割がそのように回答しています。
ここから読み取れるのは、子育ての方針が一致していないことを不満に思っている夫婦像です。「私は子どものためを思ってこんなにやっているのに、夫は協力してくれない。何もわかっていない」と思い、子どもへの口出しがエスカレートしてしまう。自分が指導しなくてはいけないと思っているのです。まさにバイアスが強化されています。
実際、私が面接で「お父さんとお母さんで話し合ったことはありますか」と聞くと「そんなもん話すわけないじゃないか」「この人に言ったって何も聞きゃしないんだから」と不満そうに言う人は少なくありません。そして、お互いに「相手が悪い」と主張します。これでは、自分のバイアスに気づくどころの話ではありません。そのしわ寄せが子どもにいくわけです。
夫婦同士がお互いにもっと話し合い、自分と違う考え方も理解しようと少しでも努力をしていれば、こうはならないはずです。
問題なのは「一致していなかったこと」そのものではありません。
夫婦もそれぞれ違う人間ですから、価値観の相違は当然です。子育ての方針が一致しないなんていうことはいくらでもあるでしょう。むしろそれが普通です。一致しなくてもいいから、話し合うことが大事なのです。
ひとり親家庭で話し合う相手がいない場合は、公的機関に相談することをおすすめします。自分の親やきょうだいなどで親身になってくれる人がいればいいですが、意見が食い違うときに本当に話し合えるかといえば難しいのではないでしょうか。そのような場合には、専門家を頼るのが一番です。とくに問題が起きていなくても、「こういう子育ての仕方をしているが、大丈夫だろうか」と相談すればいいのです。
もちろん、自分の確証バイアスに気づくという意味では、セルフチェックもひとつの手です。
出口 保行
東京未来大学 こども心理学部長
犯罪心理学者
1985年に東京学芸大学大学院教育学研究科発達心理学講座を修了し同年国家公務員上級心理職として法務省に入省。以後全国の少年鑑別所、刑務所、拘置所で犯罪者を心理学的に分析する資質鑑別に従事。心理分析した犯罪者は1万人を超える。
その他、法務省矯正局、(財)矯正協会附属中央研究所出向、法務省法務大臣官房秘書課国際室勤務等を経て、2007年法務省法務総合研究所研究部室長研究官を最後に退官し、東京未来大学こども心理学部教授に着任。2013年からは同学部長を務める。内閣府、法務省、警視庁、各都道府県庁、各都道府県警察本部等の主催する講演会における実績多数。
「攻める防犯」という独自の防犯理論を展開。現在、フジテレビ「全力!脱力タイムズ」にレギュラー出演しているほか、各局報道・情報番組において犯罪解説等を行っている。