どうすれば子どもが社会不適応を起こさず、幸せに生活していけるのか。犯罪心理学者・出口保行氏の著書『犯罪心理学者が教える 子どもを呪う言葉・救う言葉』(SBクリエイティブ)より、自己肯定感を壊す「危ない一言」を見ていきましょう。少年鑑別所では、自己肯定感の低さゆえに援助交際を繰り返したケースも珍しくありません。自分を大事にする力は、良い人生を歩むための根源的な力です。

「自己肯定感」は放っておくと下がる

日本人の自己肯定感の低さは以前から問題視されています。たとえば内閣府の調査によると「自分自身に満足している」若者の比率は、欧米諸国で80%台なのに対し、日本では40%台です(図表1)。

 

出典:「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査(平成30年度)」(内閣府)
[図表1]13歳から29歳に聞いた「自分自身に満足していますか?」 出典:「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査(平成30年度)」(内閣府)

 

近年はとくに自己肯定感が注目され、教育の現場でもさまざまな取り組みはされているようですが、あまり改善されていません。

 

さらには、成長とともに自己肯定感は下がりがちなのです。同じく内閣府の調査によると、「いまの自分が好きだ」と答える若者の割合は年齢が上がるにつれて減少しています(図表2)。

 

出典:「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査(平成30年度)」(内閣府)
[図表2]13歳から29歳に聞いた「いまの自分が好きですか?」 出典:「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査(平成30年度)」(内閣府)

 

思春期になって自分についていろいろ考え始める頃には、「自分がイヤだ」と思うのも自然なことです。「友だちの誰々はすごい。それに比べて自分は…」と落ち込んだ経験は誰しもあることでしょう。

 

13歳頃から25歳頃の青年期は「疾風怒濤(しっぷうどとう)の時代」と言われます。心身の急速な発達にともない、不安や動揺も感じやすい時期。

 

幼少期には高かった自己肯定感が自然と低下するわけです。その中でも、自分の課題を見つけてそれをクリアし、より良い自分に向かっていくというのが正常な発達です。

 

親はそれを見守り、必要に応じてサポートしたいところです。他人と比べて落ち込む子に対し「あなたの存在自体に価値がある」と伝えるのも方法のひとつです。思春期になると面と向かって話をすることも少なくなるかもしれません。そこで観察力が物を言います。子どもの様子を日ごろから見ていれば、声をかけるべきときがわかるでしょう。

 

そして、本人が自分の課題に向かえることが大切です。

幼少期の自己肯定感が「課題と向き合う力」につながる

自己肯定感と似た言葉に「自己効力感(セルフエフィカシー)」があります。自己効力感とは、何らかの課題に対して「自分ならきっと解決できる」という思いを持っていることです。自己効力感が高いほど、実際に課題解決に必要な行動をとることができます。逆に、自己効力感が低いと、課題の入り口で「自分にできるはずがない」と取り掛かりもしないことが多くあります。

 

この自己効力感にもっとも大きく関わるのが自己肯定感です。自分の存在自体に価値があると信じることができていると、課題解決にも前向きになれます。おのずと成功体験が増え、自信につながります。

 

このように考えると、幼少期に自己肯定感が低かった場合、課題の多い思春期以降に自己肯定感を高めるのは非常に困難になることがわかるのではないでしょうか。課題に直面したときに前向きになれず、その結果、乗り越えることができずに自信を失う。そのうえ親が「できないあなたはダメだ」というメッセージを伝えれば、自己肯定感は下がる一方でしょう。

「何度言ったらわかるの!」が自己肯定感を破壊する

「何度言わせるの!」

 

「この間も言ったでしょう!」

 

「いい加減にしなさい!」

 

親はこう言って感情を爆発させ、「何度言ってもできないおまえはダメだ」というメッセージを伝えています。親のストレス発散にはなるかもしれませんが、問題は解決しないどころか子どもの自己肯定感を下げることになります。

 

それでは、何度言っても子どもがわかってくれないという問題を解決するにはどうしたらいいでしょうか。まず考えたいのは、子どもがきちんと理解できる伝え方か、ということです。

 

もうひとつは、親自身の思い込みで勝手に怒っているのではないか、ということです。「何度言ったらわかるの!」は、親が子どもに対し「こうあるべき」と思っていることを裏切られたという怒りの表出です。しかし本当にそうあるべきなのか、点検してみる必要があります。

「何度言ったら…」が出そうになったときこそチャンス

「何度言ったらわかるの!」と言いたくなったときは、自分の思い込みに気づくチャンスです。

 

どういうことに対して怒りを感じるのか、書き出してみてください。勉強のこと、しつけのこと、友人関係のことなど傾向が見えてくるはずです。それはあなたが大切にしている価値観なのだと思います。価値観自体は何も悪くありません。ただ、「こうあるべき」という思い込みが怒りの源になっているなら、それに気づくことが解決の一歩になります。

 

 

出口 保行

東京未来大学 こども心理学部長

犯罪心理学者

 

1985年に東京学芸大学大学院教育学研究科発達心理学講座を修了し同年国家公務員上級心理職として法務省に入省。以後全国の少年鑑別所、刑務所、拘置所で犯罪者を心理学的に分析する資質鑑別に従事。心理分析した犯罪者は1万人を超える。

その他、法務省矯正局、(財)矯正協会附属中央研究所出向、法務省法務大臣官房秘書課国際室勤務等を経て、2007年法務省法務総合研究所研究部室長研究官を最後に退官し、東京未来大学こども心理学部教授に着任。2013年からは同学部長を務める。内閣府、法務省、警視庁、各都道府県庁、各都道府県警察本部等の主催する講演会における実績多数。

「攻める防犯」という独自の防犯理論を展開。現在、フジテレビ「全力!脱力タイムズ」にレギュラー出演しているほか、各局報道・情報番組において犯罪解説等を行っている。

 

 

※本連載は、出口保行氏の著書『犯罪心理学者が教える 子どもを呪う言葉・救う言葉』(SBクリエイティブ)より一部を抜粋・再編集したものです。

犯罪心理学者が教える 子どもを呪う言葉・救う言葉

犯罪心理学者が教える 子どもを呪う言葉・救う言葉

出口 保行

SBクリエイティブ

その「一言」が、子どもを非行・犯罪へと向かわせる――。 親のよかれが危険な声かけになっていないか検証し、学力・人間力ともに優れ自律した子どもを育てる方法とは? 子育てに悩むすべての親を救う、人気教授の決定版…

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