(※写真はイメージです/PIXTA)

非行少年の保護者には、親としての責任感に欠けた人々がいる一方で、子どものために一生懸命やってきたという人も少なくありません。出口保行氏の著書『犯罪心理学者が教える 子どもを呪う言葉・救う言葉』(SBクリエイティブ)より、親の「よかれと思って」が子どもの非行・犯罪につながる理由を見ていきましょう。

少年院まで行く子は「どうしようもないヤツ」なのか?

犯罪心理学の目的は、更生への指針を示すことです。罪を犯してしまった人が社会に復帰して、自律的に生きていくための教育を施すことなのです。更生プログラムを作るために、じっくり時間をかけて心理分析をしています。そのプログラムは、一人ひとり違うオーダーメイドです。

 

あまり知られていませんが、少年院に限って言えば日本の更生率は非常に高いです。

 

少年院を出た後、5年以内に再犯して戻ってきてしまう率は約15%(出典:令和3年版犯罪白書[法務省])。つまり、8割から9割が更生できているというわけなのです。

 

そもそも少年院に行く子ども自体の数も少ないです。家庭裁判所で扱った非行事件約4万4000件のうち少年鑑別所入所者は約5200人、少年院へ入所するのは約1600人。つまり、少年鑑別所まで行くのは全体の12%、少年院まで行くのは全体の4%ということです(出典:令和3年版犯罪白書[法務省])。

 

少年院まで行くのは、一般的に言えば「どうしようもない悪いヤツ」と思われている少年です。普通にしていたら「社会生活ムリでしょ」「また犯罪するでしょ」と思われている少年が、少年院に入って1年ほどで社会復帰し、多くは再犯することなく生活ができるようになっているのです。こう考えると、驚くべき数字ではないでしょうか。

 

これには犯罪心理学の分析結果に基づいた矯正教育における的確な更生プログラムと、丁寧な教育実践が功を奏していると考えられます。

 

きちんと心理分析をし、それに基づいて個別の教育をきちんと行うことができれば、どんなに「どうしようもないヤツ」と思われている人でも、社会の中で自律的に生きていくことができるのです。私はそれを信じてやってきましたし、実際に教育を行っている少年院の先生もそうでしょう。

親の「よかれと思って」はただの自己満足かもしれない

ただ、正直に言うと厄介なのは保護者のほうです。子ども自身は、変わることができます。しかし、親が変わることを拒むと、子どもの更生が難しくなるのです。

 

私は多くの非行少年の更生にも立ち会ってきました。その中で、たとえば親に対し「お子さんの言うことを否定するのでなく、いったん受け入れてから指導してもらえませんか」と伝えたとき、これまでのやり方が子どもを苦しめていたことに気づき、変わる親もいました。「私が悪かった。気づかなくてごめんなさい」と子どもに謝り、良くなかったところを変える努力をするのです。

 

この場合、非行少年の更生は決して難しくありません。一度は罪を犯したという非常に重たいものはあるけれど、これがきっかけとなって良い方向へ向かうことができます。

 

ところが、同じように伝えても聞く耳を持たない親もいます。「私は私のやり方でやっているんです! あなたに何がわかるんですか!」「そんなこと言われなくてもわかっています! 私はちゃんとやっています!」とキレる人さえいるのが現実です。

 

親自身は「子どものためを思ってやってきた」という認識である場合、「それが子どもにとってはいい迷惑だった」と言われてもなかなか受け入れられないのでしょう。

 

その気持ちもわかります。

 

しかし、親が良いと信じていることでも、子ども自身にとってはいい迷惑という場合は多いのです。そして、最初は小さなボタンのかけ違いだったものが、次第に取り返しのつかない事態になっていく…。

 

これはすべての親が陥る危険性のあることです。「よかれと思って」「子どものために」という言葉が出たとき、「それは本当だろうか?」と自ら顧みる姿勢が必要ではないでしょうか。大事なのは子どもにとっての「主観的現実」です。これは何度でも強調したいことです。

次ページ親が陥りがちな「確証バイアス」

※本連載は、出口保行氏の著書『犯罪心理学者が教える 子どもを呪う言葉・救う言葉』(SBクリエイティブ)より一部を抜粋・再編集したものです。

犯罪心理学者が教える 子どもを呪う言葉・救う言葉

犯罪心理学者が教える 子どもを呪う言葉・救う言葉

出口 保行

SBクリエイティブ

その「一言」が、子どもを非行・犯罪へと向かわせる――。 親のよかれが危険な声かけになっていないか検証し、学力・人間力ともに優れ自律した子どもを育てる方法とは? 子育てに悩むすべての親を救う、人気教授の決定版…

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