説得されるほどやる気が失せる「ブーメラン効果」
ブーメラン効果とは、相手を一生懸命に説得するほど、反発が起こって逆の行動を導いてしまうという現象のことです。人は行動を強制されると、それに反発したくなるもの。意識的にも無意識的にも自由を求めており、自由が侵されたと感じるからです。「勉強しなさい」と言われてやる気がなくなった、という経験を持つ人も多いのではないでしょうか。
「買わないと損ですよ!」と強くすすめられると買いたくなくなる。
「どうか私に清き一票を!」と強くアピールされると投票したくなくなる。
こういった例もブーメラン効果で説明ができます。
ブーメラン効果を防ぐには、親子の信頼関係が重要
ブーメラン効果が起きやすい条件が2つあります。ひとつは「説得者と同じ意見であるとき」。自分の意見と反対のことを説得されるから反発したくなるのではないかと考えてしまいますが、そうではないのです。「自分でそうしようと思っていたのに!」というときに反発して、逆の行動をとろうとします。勉強しようと思っているときに「勉強しなさい」と言われると、やりたくなくなるわけです。
もうひとつは、「説得者を信用していないとき」。はじめて会った人に説得されたら、反発したくなるのが普通だと思います。不信感を持っている相手もそうです。逆に、信頼している人から「~しなさい」と言われれば、「強制されている」「自由が侵されている」とは感じません。
親子で「勉強以外の話題」を持つことも大切
親は勉強に関して心配しがちですが、親子での話題が勉強にかたより過ぎていると危険です。子どもが話すのが勉強に関するものばかりであれば、それは親が勉強以外の話題を遠ざけているということです。子どもは親の顔色を見て話題を選んでいます。
本来、子どもの興味関心は勉強だけではありません。友だちのこと、スポーツなどの趣味、ゲーム、テレビ、YouTubeなど話題はいろいろあるはずです。
しかし、テストでいい点をとった話や授業中に活躍した話などは一生懸命聞くのに、友だちの話、趣味の話は「へぇ」とそっけない返事。むしろ「そんなことより、テスト勉強は大丈夫なの?」と言われてしまう…ということを繰り返すと、勉強の話ばかりするようになるのです。
勉強の話なら聞いてもらえると感じた子は、いろいろ無理をするようになります。
できているうちはいいですが、普通は限界がくるのです。悪い成績は隠すし、嘘をついてでも聞いてもらおう、認めてもらおうとするようになります。もはやその子にとって勉強は楽しいものではないでしょう。
受験期などで本人の生活が勉強中心となっているときも、親子での話題が勉強ばかりでは息が詰まります。他のさまざまな話をしてリフレッシュできたほうが、やる気も湧いてくるものです。勉強や成績のことは、幅広い話題のうちのひとつと考えることです。
勉強につまずいたら、スモールステップを考える
もちろん、勉強はしないよりしたほうがいいと言えます。本来、勉強は楽しいものです。知らなかったことを知ることができ、ものの見方を広げてくれます。
世界中のニュースを面白がれるのも、前提の知識があるからです。学ぶほどに、さまざまな情報を深く解釈し、自分の人生に役立てていくことができます。教養は人生を豊かにしてくれるものです。
親は、「勉強をしなさい」とただ伝えるのではなく、勉強の面白さを伝えることが大事です。
とはいえ、学習の中では面白く思えない単元や教科もあるでしょう。本当の面白さがわかる前に、理解しておくべきところ、練習しておくべきところというのもあります。「こんなことを学んで何の役に立つの?」「全然面白くない」という子も出てきます。
みなさんも中学生の頃、「1192(いいくに)つくろう鎌倉幕府」というような語呂合わせで歴史を覚えた人が多いでしょう。しかし、今から800年も前のことを記憶して何になるんだと率直な疑問を抱いた人も多いと思います。しかし、今の我々の生活は歴史を通して作られたもの、過去を知らなければ現在を理解できないものです。
ただ、それを理解できるのはずっと大人になってからです。学んでいる最中は「なんで…」と思うことばかりです。
やみくもに「勉強しなさい」と言っても、子どもはますますイヤになるだけです。つまずいている部分があるなら、課題をスモールステップに分けてみましょう。目標を細分化して、小さな目標を達成することを積み重ねながら、最終的な目標にたどりつくやり方です。
たとえば、作文が苦手だという子がいたとします。目標は400字詰めの原稿用紙にまとまった内容の文章を書くことです。これをスモールステップに分けてやっていくと、次のようになるでしょう。
1.原稿用紙の使い方を理解する
2.夏休みのできごとをメモ書きする
3.「いつ、どこで、誰と、何をした」という事実と、感想に分けて書いてみる
4.原稿用紙に清書する
こうしてスモールステップに分けると、まず何をすればいいかがわかります。そして、一つひとつクリアすることで達成感を得られるのがいいところです。小さな成功を重ねることが大事です。「できた」と思えば面白くなってくるものです。
この方法をとることで、親も結果だけを見るのではなく、プロセスにフォーカスできます。「まずはこのステップをやってみよう」と促し、取り組んだこと自体を褒めます。プロセスを褒められると、子どもは「もっとやってみよう」と思えるのです。
出口 保行
東京未来大学 こども心理学部長
犯罪心理学者
1985年に東京学芸大学大学院教育学研究科発達心理学講座を修了し同年国家公務員上級心理職として法務省に入省。以後全国の少年鑑別所、刑務所、拘置所で犯罪者を心理学的に分析する資質鑑別に従事。心理分析した犯罪者は1万人を超える。
その他、法務省矯正局、(財)矯正協会附属中央研究所出向、法務省法務大臣官房秘書課国際室勤務等を経て、2007年法務省法務総合研究所研究部室長研究官を最後に退官し、東京未来大学こども心理学部教授に着任。2013年からは同学部長を務める。内閣府、法務省、警視庁、各都道府県庁、各都道府県警察本部等の主催する講演会における実績多数。
「攻める防犯」という独自の防犯理論を展開。現在、フジテレビ「全力!脱力タイムズ」にレギュラー出演しているほか、各局報道・情報番組において犯罪解説等を行っている。