製薬業界の粗利率が高いワケ
粗利率を高くするには、原価を安くして、高く売る必要があります。原価を安くするというのは、販売業なら安く仕入れるということですし、製造業なら安く作るということです。どこでも扱っているような商品だと粗利率をあげるのは簡単ではありません。他の会社で安く売っているものを、自分の会社だけ高く売ろうとしても売れません。
他では扱っていない魅力的な商品を扱えば、粗利率は高くなります。たとえば、製薬会社は粗利率が高い業界です。特許で守られているため、他社は同じ商品を作ることができず、また、薬価という公定価格で、販売価格も決まっているからです。
孫子は「戦わずして勝つ」ことを説きましたが、ビジネスでも同じ。価格競争で他社と戦うと、粗利は小さくなってしまいます。粗利率が高い会社は、商品力が高く、他社とは戦わない会社のことが多いのです。
ニトリは、なぜ「お、ねだん以上。」ができるのか?
小売業は物を仕入れて消費者に売るビジネスです。通常は自社で物は作りません。自社で物を作って小売をするのはSPAと呼ばれます。SPAは、Speciality store retailer of Privatelabel Apparelの頭文字をとったものです。
もともとアメリカのアパレル会社であるGAPが自社のことをそのように言ったのが始まりですが、今は、アパレル以外の業界にも広がり、広く製造小売業者のことをSPAと言います。
ニトリはSPAの代表的な企業の一つです。人件費の安いベトナムなどに工場があります。家具の業界では、一昔前までは、メーカー、問屋、小売店というように、それぞれ分業するのが当たり前でした。
メーカー、問屋、小売店というように流通する場合は、メーカーは売上原価に粗利を乗せて問屋に売ります。問屋はメーカーからの仕入れ値に粗利を乗せて小売店に売ります。小売店もまた、問屋からの仕入れ値に粗利を乗せて消費者に売ります。消費者が買う値段は、メーカー、問屋、小売という各段階での粗利がのった金額になります。
一方、SPAの場合は、間に会社がありません。自社で作って、自社で売るので、間に入る会社がない分、利益率を高くすることができるのです。「お、ねだん以上。ニトリ」が実現できるんですね。
そんなに儲かるなら、他の会社もSPAをやればいいのに、と思ってしまうかもしれませんが、SPAは簡単にできることではありません。私は、これまで、小売業の経営者にも数多くお会いしましたが、「製造部門を持つことは考えませんか?」と聞くと、たいていは考えていないとの答えがあります。
自社には製造のノウハウがない、自社で製造部門を持つと取引のある製造会社との関係が悪くなる、また、売れ筋は時とともにかわるので製造部門を持たずに売れ筋だけを仕入れたほうがよいといった理由です。
そういった難しさを乗り越えて、製造と小売を両方ともやることができるようになると、収益力も高くなるんですね。
前田 忠志
公認会計士