(画像はイメージです/PIXTA)

継続雇用制度があっても「会社には残らず、ゆるくアルバイト生活を送りたい」と考えている人も多いのではないでしょうか。家計の面において可能かどうか、年収600万円の一般的な男性会社員の事例から、シミュレーションで検証してみましょう。※本記事は『いちからわかる!定年前後のお金と手続き 得する働き方・暮らし方ガイド 2022-2023年最新版』(インプレス)から抜粋・再編集したものです。

実際は、多くの定年退職者が「継続雇用」を選択

厚生労働省の調査「高年齢者雇用状況等報告」(令和3年)では、60歳定年企業において、定年到達者のうち、86.8%もの人が継続雇用されています。

 

60歳で定年を迎えた人の多くが継続雇用制度を利用し、引き続き同じ会社で働き続けている一方、「60歳定年で会社を辞めたい」「継続雇用で会社には残りたくない」という人がいるのも事実です。同調査で継続雇用を希望しない定年退職者は13%でした。

 

「継続雇用だと仕事内容はさほど変わらないのに給料が大幅に下がる」、「役職がなくなるのでプライドが傷つけられる」、「自分が必要とされていると感じられない」…。継続雇用を否定的に見ている人たちの主な理由はこういったところでしょうか。

定年後「アルバイトでゆるく働きたい」は可能か?

定年退職後に無収入になるのは不安なので、「週3日ほどのアルバイトの形で働きたい」といった働き方を希望する人も多いのではないでしょうか。

 

今回シミュレーションをする太郎さんもその1人。太郎さんは現在59歳、年収600万円のサラリーマンで、定年目前です。退職金は1983万円、現在の貯蓄残高は1000万円。持ち家(戸建て)でマイカー所有と、ごく一般的な家庭の想定です。妻は専業主婦、子ども2人は独立しています。

 

定年後のライフイベント費に関しては、車の買い替え、自宅リフォームの他にも、退職の記念旅行や年に1回の妻との旅行、また孫が誕生した際の祝金も考えており、さまざまな出費を見込んでいます。

 

太郎さんはできれば会社の継続雇用制度は利用せずに定年退職し、10年間アルバイト生活(年収120万円)を送りたいと希望しています。実際、その希望が叶う家計なのでしょうか。以下で「定年後も継続雇用で10年間会社に残る(年収312万円)」という選択肢と比較して、チェックしていきましょう。

 

「60歳で会社を辞めたい!」

太郎さんのプロフィール&シミュレーション条件

 

★プロフィール 

夫:太郎さん(昭和38年4月2日生まれ)

妻:花子さん(昭和43年4月2日生まれ)

※子ども2人は独立し2人暮らし

★家計:前提条件 

退職金:1983万円

金融資産:1000万円

 


 

基本生活費

60~69歳…28万8312円

70歳~…22万6383円

夫死亡(90歳)後…15万9000円(70歳~の70%)

 

その他の支出

固定資産税…10万円(生涯)

自動車税…4.5万円

自動車保険…5.5万円(80歳まで)

 

年金加入歴

夫…大学卒業後(浪人などして)25歳から60歳まで35年間厚生年金

妻…大学卒業後、10年間厚生年金、国民年金は第3号22年、第1号5年

 

一時的な支出

退職の記念旅行…100万円(60歳)

子どもの結婚費用援助…200万円(60歳、63歳)

車の買い替え…350万円(60歳時→200万円、71歳時→150万円)

自宅リフォーム…200万円(62歳)

年に1回妻と国内旅行…400万円(60歳~79歳→20万円×20回)

古希祝いで子どもたち一家と海外旅行…100万円(70歳)

孫への祝い金(4人分)…200万円(50万円×4人)

 

住宅ローン

なし。60歳定年退職前に完済

 


 

★太郎さんの働き方:前提条件

 

アルバイト:定年前は年収600万円(額面)。定年退職し、10年間アルバイト(年収120万円)で働く。年金受取りは65歳から。

 

継続雇用:定年前は年収600万円(額面)。定年退職後も10年間継続雇用(年収312万円)で働き続ける。年金受取りは65歳から。

 

[図表1]太郎さんのプロフィール&シミュレーション条件
[図表1]太郎さんのプロフィール&シミュレーション条件

アルバイト:赤字が続き、73歳で破綻に追い込まれる!

◆残された妻にとってもかなり厳しい家計になる

 

まずは、会社の継続雇用制度は利用せず定年退職後に10年間アルバイト生活を送る(年収120万円)場合の家計を見てみましょう。

 

60歳時に退職金を受け取ることでこの年の収支は大幅プラスとなりますが、64歳まではアルバイト収入のみのため、収入が激減。貯蓄もこの期間に急激に減少してしまいます。65歳から年金受給が始まり収入は上がるものの、年間収支を見ると61歳から生涯にわたり赤字続き。貯蓄も73歳時には底をつくことになります。

 

太郎さんが90歳で死亡すると仮定した場合、その時点での貯蓄残高はマイナス500万円強。夫死亡後は花子さんだけの年金額になりますので、残された妻のことを考えてもこのプランはかなり厳しいことがわかるでしょう。

 

[図表2]貯蓄残高の推移とキャッシュフロー表 ~定年退職し10年間アルバイト生活(年収120万円)の場合~
[図表2]貯蓄残高の推移とキャッシュフロー表 ~定年退職し10年間アルバイト生活(年収120万円)の場合~

継続雇用:定年後10年間勤務で、一生涯貯蓄はプラスに

◆継続雇用で会社に残れば老後破綻はなし!

継続雇用で10年間会社に残るケース(年収312万円)では、生涯貯蓄が底をつくこともなく、ライフイベントも実現可能です。

 

アルバイト生活では、60歳時に退職金の収入があっても、アルバイト生活10年の間に積もった年間収支の赤字合計はなんと約2600万円。赤字補填で貯蓄残高が早々に底をつきます。

 

※ 60歳時の退職金を除いた実質的な赤字額

 

一方、継続雇用では、65歳になるまでは高年齢雇用継続給付で収入減もカバー。定年後10年間の年間収支の赤字合計は約1100万円にとどまり、その後の赤字は貯蓄から切り崩しても生涯、破綻しません。定年後10年間の収入の差で明暗が分かれています

 

[図表3]貯蓄残高の推移とキャッシュフロー表 ~定年後10年間継続雇用(年収312万円)で会社に残った場合~
[図表3]貯蓄残高の推移とキャッシュフロー表 ~定年後10年間継続雇用(年収312万円)で会社に残った場合~

 

定年後にアルバイト生活をする場合は、ライフイベント費などを大幅に削る対策が必要になります。

 

 

福地 健
ファイナンシャル・プランナー
社会保険労務士事務所 あおぞらコンサルティング顧問
(株)近代セールス社前代表取締役社長
CFP®(日本FP協会元理事)

いちからわかる!定年前後のお金と手続き 得する働き方・暮らし方ガイド 2022-2023年最新版

いちからわかる!定年前後のお金と手続き 得する働き方・暮らし方ガイド 2022-2023年最新版

監修:福地 健

株式会社インプレス

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