(写真はイメージです/PIXTA)

辞めさせたい社員に退職勧奨をする場合、伝え方には特に注意しなければなりません。対応を誤れば、違法な「退職強要」であるとして損害賠償請求されるリスクがあるためです。今回は、実際に違法と判断され、会社側が損害賠償を払うこととなった3つの判例をもとに、スムーズな「退職勧奨」の方法と注意すべきポイントについて、Authense法律事務所の西尾公伸弁護士が解説します。

退職勧奨が「違法」とされた判例3つ

対応に注意しなければ、退職勧奨が違法と認定されてしまうかもしれません。ここでは、退職勧奨にまつわる裁判例を3つ紹介します
※ 公益社団法人全国労働基準関係団体連合会:労働基準関係判例一覧
 

1ヵ月で6回以上…執拗な退職勧奨で違法となった「アルバック販売事件」

会社の収益悪化や業務上の素行不良を理由に、会社が従業員に対して退職勧奨をしたところ、違法な退職勧奨であるとして従業員から解雇無効や慰謝料を求めた事例です
※ 公益社団法人全国労働基準関係団体連合会:アルバック販売事件
 

この事例では、従業員が一貫して退職勧奨を拒否し、また退職勧奨を繰り返す必要性が特になかったにもかかわらず、退職勧奨を行いました。

 

また、従業員が退職勧奨に応じるまでずっと退職勧奨が続くかのような心理的圧迫を加え、1ヵ月未満のあいだに計6回という短期間に多数回の退職勧奨を受けていました。

 

さらに、退職勧奨の内容も、客観的事実と異なる事実を説明したうえ、仕事がないと従業員を殊更に不安にさせて二者択一を迫るものであったと認定されています。

 

その結果、裁判所は、退職勧奨行為は違法であるとして、従業員に対する損害賠償責任があるとされました。また、解雇には客観的合理的理由がなく、かつ社会通念上相当であるとも認められなかったことから無効となりました。

 

辞めさせるためパワハラ行為…「国鉄九州地方自動車部事件」

執拗な退職勧奨をした国鉄に対して、不法行為に基づく慰謝料の支払いと退職勧奨の過程で出された配転命令の無効確認が求められた事例です
※ 公益社団法人全国労働基準関係団体連合会:国鉄九州地方自動車部事件
 

この事例では、退職勧奨をするために、従業員の休憩時間の自由利用を妨げたり、有給休暇取得の権利行使を妨げたりしたうえ、従業員の配置転換が行われていました。

 

その結果、一連の退職勧奨行為は違法であるとして、勤務先である国鉄に、従業員への損害賠償責任があるとされています。一方、配置転換については転勤命令から7年6ヵ月あまりが経過していることを理由に、無効とはされませんでした。

 

退職勧奨の年齢基準に“男女差”…「鳥取県教育委員会事件」

男女の年齢差がある退職勧奨年齢基準にもとづく退職勧奨について、違法性が争われた事例です※。
※ 公益社団法人全国労働基準関係団体連合会:鳥取県教育委員会事件
 

その結果、男女年齢差のある退職勧奨年齢基準が設定されていることや、これに基づいて退職勧奨が行われたことなどが男女差別に該当し不法行為にあたるとして、損害賠償請求が認容されています。

 

退職勧奨基準を設けてそれに従って退職勧奨をするとしても、その基準自体に差別的な要素が含まれている場合には、不法行為に該当する可能性がある点で参考となるでしょう。

 

次ページ退職勧奨を円滑に進める「8つのポイント」

本記事はAuthense企業法務のブログ・コラムを転載したものです。

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