「楽観主義ではないか」との声も
しかし、同セミナーでは、ユーロチャムの会長でジャーディン・マセソン・ベトナムの国別会長であるアラン・キャニー氏が、参加者に対して「ベトナムの経済と投資環境は依然として懸念点もある」と語った。2021年の世界経済が1976年以来最速の5.5%成長を遂げたことで、グローバル市場も賑わいを見せている。その結果、しばらく見られなかった楽観主義が再び生まれているとキャニー氏は述べた。
また、ロシアのウクライナでの軍事作戦を受け、戦争と混乱が欧州の玄関口に持ち込まれ、世界経済は深刻な打撃を受けたことにも言及した。
その結果、エネルギー価格の高騰が世界市場に波及し、商品価格の上昇やサプライチェーンの混乱が生じた。そして、消費財や繊維製品、電子部品などがますます高価になり、調達が困難になっている。ベトナムのような製造業を中心とする発展途上国は、こうした圧力の影響を特に受けやすい。
さらに、「紛争が長引けば長引くほどこうした影響は強まり、加速していくだろう」とキャニー氏は述べた。当面の間、リスクと不確実性は高いままである。
また、一部地域では解禁されているものの、いまパンデミックに対する厳しい規制がされている中国の現状も、ベトナムが直面しているさらなる課題であることを強調した。
産業貿易省によると、繊維、衣料、履物産業で使用されるベトナムの原材料と付属品の55%近くは中国から輸入されている。中国が「ゼロコロナ」を追求し、その結果として物流や供給のボトルネックを引き起こし続ける限り、ベトナムは電子部品、機械部品、生地、化学品などの必須生産物の入手が困難であることに変わりはないだろう。これは、ベトナムの輸出成長を脅かすものである。
世界的な労働力不足は、成長をさらに制限する。国際労働機関(ILO)は、2022年に世界で約5,200万人のフルタイム雇用が失われることに相当する労働時間の不足を予測している。その結果、ベトナムは急速な経済成長を維持するために必要な雇用を満たすのに苦心している。
世界の投資家から見たベトナム
これらの要因は、ベトナムおよび世界中の投資家の信頼を低下させている。2022年第3四半期、ユーロチャムのベトナム・ビジネス環境指数(BCI)は、ベトナム人投資家たちの投資環境に対する信頼低下を示し、62に低下した。また、国連、世界銀行、IMF、OECDによる国際的な成長予測の下方修正も行われている。世界的な不確実性が続く一方で、ベトナムの見通しは心強い。
キャニー氏によると、世界銀行は2022年の世界の成長率を2.8%と弱めに予測しているが、ベトナムは7.2%の成長が見込まれるという。これは、ベトナムの若くダイナミックで、テクノロジーにますます精通した5,600万人の労働力が牽引しており、比率でも絶対数でも世界最大の労働力の1つとなっているのである。
ベトナムの高品質で安価な労働力を考慮すれば、外国人投資家がベトナムに製造業の拠点を移したいと考えるのは当然のことだ。その結果、輸出志向の製造業とインバウンドの外国直接投資が、ベトナムの経済成長を牽引している。現在、ベトナムの輸出はGDPの19%を占め、2010年の1%未満から増加した。実際、同国の輸出市場は現在、マレーシアやタイを上回っている。