コロナ禍をきっかけにテレワークが普及し、営業職のあり方や働き方が大きく変わってきました。オンライン面談が主流となり、対面による営業が困難になり、困惑する営業マンが続出しているといいます。経営コンサルタントの井口嘉則氏が著書『リーダーのための人を動かす語り方』(日本能率協会マネジメントセンター)で解説します。

 

リアル面談の10分の1の情報しかない

2つ目は、情報量が少ないという問題です。オンラインでは、場の共有だけでなく、話し手の表情や反応も分かりにくいので困ります。リアルでは得られていた言葉以外の情報が、オンラインでは入ってきません。

 

コミュニケーションの理論で有名な「メラビアンの法則」というのがありますが、私たちが普段他の人の話を聞いている際に、その仕草や目線、表情など言葉以外の情報から得る印象の割合は、全体の9割以上を占めていると言われます。つまりリアルの対面で行うコミュニケーションの場合、言葉から得られる印象の割合は1割以下なのに、オンラインでは、その1割以下の言葉に頼らざるを得なくなっているのです。

 

オンラインでは、リアルで得る10分の1以下の情報しか得られない中で、相手の話を理解したり、こちらの話を分かってもらったりしなければならないわけです。当然ながら、オンラインでのコミュニケーションにストレスを感じるわけです。「なかなか伝わらないなぁ。」ということになります。

 

このようにオンラインでは、発せられる言葉に依存する割合が高いため、何をどのように伝えるかということで、悩みを抱える人が最近増えたのではないでしょうか。

 

もちろん私たちは、テレビ等の画面越しにアナウンサーやレポーターがしゃべる話には慣れてはいますが、それはあくまでもただ見たり聞いたりしているだけで、受け身で行っていることなので、いざ自分がテレビに向かってしゃべらなければならないとなると、何をしゃべっていいのか困ってしまうわけです。

 

例えば、テレビでインタビューを受けているのに何をしゃべっているか分からない人って時々いますね。その人は、それで他人に分かってもらえると思ってしゃべっているのに、文脈を共有していない人からすると、何を言っているのか分からないということになってしまうのです。それで、仕方がないので、リポーターがその人の話を補足したりしています。

 

オンラインでは、画面に映る相手からの情報が、発せられた言葉や共有された画面しかなくて、聞き手として受け取りづらい、判断しにくいということがありますが、もう一方で、話し手からすれば、こちらからの情報が、こちらが発した言葉などに限られてくるため、それまでリアルの場面では多くを話さなくても伝わったことが、より多く話さないと伝わりにくくなっています。

 

ですから、どう話したらいいのか、どう伝えたらいいのかについて関心が高まったものと思われます。

 

3つ目は、「文脈」の分かりづらさ、伝わりづらさの問題です。日本語は、もともと文脈、コンテクスト重視の言語なので、例えば「誰が」という主語をよく省きます。例として、「源氏物語」には、ほとんど主語が出てきません。述語で主語が誰かを推測します。

 

しかし、その前提となる文脈が共有できていない場合は、普段はわざわざ言葉にしていなくても伝わった文脈を、あえて言葉にして説明する必要がでてきたわけです。

 

昔からアナウンサーやリポーターの人たちは、そのことで悩んできました。どうやったら画面越しの視聴者に話が伝わるのかと。それで、大げさな言い方や、大きな身振り手真似などをして伝えてきました。しかし、現代は、彼らが悩んできたことを、オンライン会議をやる人、すなわち私たち全員が悩まなければならない時代になってきたわけです。

 

これも「話し方の本」が売れたり、「話し方講座」が賑わいを見せたりする一因になっていると思われます。

 

井口 嘉則
オフィス井口 代表

 

 

※本連載は井口嘉則氏の著書『リーダーのための人を動かす語り方』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋し、再構成したものです。

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