(※写真はイメージです/PIXTA)

なぜ還暦のあなたにこそ筋トレをすすめたいのかを説明します。健康のためだとか、人生100年時代だから元気にとか、ピンピンコロリとか、そんな寝言ではありません。むしろ、それらすべてと真逆な目的なのです。還暦から筋トレを始めた城アラキ氏が著書『負けない筋トレ 還暦から筋トレにハマったら、「肉体」と「人生」が激変した!』(ブックマン社)で解説します。

トレーナーに高齢女医の一喝

■「そんなことできるわけないでしょ!」

 

あるワイン会のことだ。Nさんはご夫婦ともドクター。奥様は私より歳は上だから70歳近いはずだ。この奥様、江戸っ子のベランメェ口調で、快活を通り越して超パワフルである。何かの弾みで筋トレの話になった。

 

この先生、なんとパーソナルのトレーナーについて毎週、筋トレをやっているというのだ。ついにブームはここまで来たか。

 

「でもそのトレーナーの子が『はいもう1回頑張って』なんて言うから怒ってやったのよ。『そんなことできるわけないでしょ! 無理に決まってるでしょ!』ってね」

 

トレーナー君の面食らった顔が想像できる。きっと言いたかったろう。

 

「そのもう1回を頑張らないと筋肉はつきません」

 

だが、そんな正論など言おうものなら「だったらお前がやれ〜」ともう一度怒鳴られたに違いない。顧客というのはどんなときでもワガママで無茶なものなのだ。仕事とはいえ、トレーナー君もなかなか大変だと、思わず同情してしまった。しかし実は、トレーナー君にも少しの非はある。

 

■「頑張れ」は励ましにはならない

 

これはむしろ、これからトレーナーを目指す若い子に言っておきたい。それが筋トレであれ仕事であれ「頑張れ」「頑張ればできる」というのは言ってはならぬことになっている。「頑張れ」という言葉は一見励ましているように見えるが、それはできる自分からできない他者への上から目線なのだ。

 

ここに上司・部下の上下関係があると、単なる上司の仕事自慢になって部下のいっそうの反発を買う。まぁ年配者が若いときにさんざん言われてムッとしたことも、自分が上司になると昔を忘れてつい「頑張れ」と言ってしまうもんだけどネ。

 

しかも悪いことに、大概のトレーナーさんは顧客であるトレーニーより若い。子どものような、へたをすれば孫のようなトレーナーからお気軽な励ましの言葉などかけられたくはない。勝気な女医さんではないが「アンタは横で『頑張れ〜』っていうだけで汗のひとつもかかずにお金がもらえて結構ね。死に物狂いで頑張っているのは私の方なのよ〜」と、怒鳴りたくなる気持ちもわかる。

 

道理が通じる客ばかりなら、サービス業の苦労はない。思うのだが、これだけ筋トレが普及してくるとシニア向けの同世代トレーナーというのもビジネスチャンスかもしれない。ジム経営者のみなさん、ご検討あれ。

 

その短編集を翻訳して日本でもブームになった短編作家レイモンド・カーヴァーの言葉を村上春樹が自著のなかで紹介している(『職業としての小説家』新潮文庫)。私も、自分が原稿を書くときは、いつも少しだけ頭の隅にこの言葉を置いている。トレーニングするときも同じである。バーベルを握ったら、丁寧に慎重に精一杯のベストを尽くす──。

 

「時間があればもっと良いものが書けたはずなんだけどね」という同業者の言葉に対して、レイモンド・カーヴァーは次のように言ったという。

 

「結局のところ、ベストを尽くしたという満足感、精一杯働いたというあかし、我々が墓のなかまで持って行けるのはそれだけである」

 

そう。しかも年寄りの墓への距離は、若いトレーナー君たちよりずっと近い。君たちのように時間はないのだ。「1回1回、ベストを尽くしたという満足感」を感じられるトレーニングを客に与えるのも君たちの仕事だ。

 

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本連載は、城アラキ氏の著書『負けない筋トレ 還暦から筋トレにハマったら、「肉体」と「人生」が激変した!』(ブックマン社)より一部を抜粋し、再編集したものです。

負けない筋トレ

負けない筋トレ

城 アラキ

ブックマン社

『ソムリエ』『バーテンダー』など、数々のお酒にまつわる傑作漫画の原作を手掛けてきた著者は自他ともに認める酒呑みであり、美食家だ。3日に一度は暴飲暴食。仕事柄、1日の歩数が500歩なんてザラだった。運動もしない日々を…

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