既存住宅の性能の低さは社会問題⁉
日本の住宅の性能は非常に低い一方で、「今の家は、冬寒く、夏暑く、結露にも困っているけど、建て直すことは難しい」という方は多いと思います(関連記事:『日本の住宅「最高等級の窓」でも「海外では最低基準」という衝撃の事実』)。そこで、今回は、既存住宅の窓の断熱リノベについて説明します。
日本の既存住宅の断熱・気密性能の低さは、様々な面から、かなり深刻な社会問題だと思います。具体的には、まず「ヒートショックリスク」です。この言葉は、だいぶ一般的に知られてきているかと思いますが、改めて説明すると、家の中の室温差に起因して、心臓や脳に負担が掛かることを言います(図1)。
特に冬の入浴時に発生することが多く、消費者庁によると、19,000人/年もの方々が、ヒートショックで冬に浴室で亡くなっていると言われています。これは昨年の交通事故死者数の7.2倍にも上る人数です。そして一説には、この2~3倍もの人数の方々がヒートショックで倒れて命を取り留めても、半身不随や車椅子生活等になってしまい、健康寿命を縮めてしまっているともいわれています。これは、我が国の社会保障費負担の増大にもつながっていると思われます。
また、結露によるカビ・ダニがアレルゲンとなり、居住者のアレルギーや喘息を引き起こしていることは、よく知られています(関連記事:『日本の住宅「最高等級の窓」でも「海外では最低基準」という衝撃の事実』)。
なぜ、窓の性能を高めると快適になるのか?
そして、住宅の断熱・気密性能の低さは、暮らしの質の低さにもつながります。逆に、住宅の断熱・気密性能を高めると暮らしは様々な面からとても快適になります。冬にトイレやお風呂に行くのが寒くて億劫とか、冬の朝に布団から抜け出すのに勇気がいるということがなくなり、日常の暮らしのストレスが減って快適になります。その上、家事も楽になるのです(関連記事:『冬の朝でも目覚めやすく、ほこりは減る」高断熱住宅に住んで“家事が楽になった”5つの理由』)。そのため、生活の質は間違いなく向上します。個人的には、人生の質、つまりQOL (クオリティオブライフ)が向上すると言っても決して大げさな表現ではないと思っています。
なぜそれほど快適なのかについてはいくつか理由があります。まず、冷暖房の効率が上がります。特にエアコンを使うならば、エアコンが必要以上に頑張り、たとえば冬に熱い風を強く吹き出す必要がなくなり、穏やかな運転になります。エアコンの風が苦手という方も多いと思いますが、この不快さが夏も冬もかなり軽減されます。
また、断熱性能の低い窓の場合、外気の影響で窓が冷えているため、冬に暖房されて温まって上昇した暖気が、そこで冷やされ足下に降りてきます。これがコールドドラフトと呼ばれる現象(図2)で、日本の住宅の足下が寒く、床暖房に人気が集まっている大きな要因です。窓の断熱性能を高めるとこの現象が起きにくくなり、足下の寒さがだいぶ軽減され、かなり快適になります。
そして、これはあまり知られていないのですが、「輻射熱」の影響が少なくなることも快適な暮らしにつながります。人の体感温度は、室温と壁面温度(壁の内側)の平均値といわれています。「輻射熱」とは、物理学的には、遠赤外線などの熱線によって伝わる熱のことです。太陽や赤外線ストーブなどから放出される熱は輻射熱です。温度の違う物体は、輻射熱でエネルギーのやりとりをしているのです。
つまり、【図表3】のように、左側の低断熱の家では、冬にエアコンが頑張って30℃まで暖房しても、壁面が外気の影響で10℃まで冷たくなっていると、人の体温が壁面に奪われて寒く感じ、体感温度はその平均の20℃になってしまいます。これを「冷輻射」といいます。右側の高断熱の家では、エアコンが22℃まで暖房して、壁面温度が20℃で維持されていれば、体感温度はこの平均で21℃ということになります。温度計で測ると左側の家の方が8度も室温が高いのにもかかわらず、右側の家の方がむしろ暖かく感じるのです。そして、床暖房がなくても足下が寒いということがないですし、エアコンが必要以上に頑張らなくてもいいので、エアコンの風も穏やかで、不快に感じることも少なくなります。
さらに、夏はこの逆のことが起きます。夏は、低断熱の家では、外気温の他に日射の影響で、天井や壁が熱くなります。これは、いわば弱い赤外線ストーブに包まれているような状態ですから、エアコンが頑張って必要以上に冷やさないと涼しくなりません。一方高気密・高断熱の家では、輻射熱の影響がないので、28℃くらいの温度設定で穏やかなエアコンの冷房でも快適に過ごすことができます。この差は、意外に暮らしのストレスに大きな違いをもたらします。
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