花王の大ヒット商品はどのように生まれたのか?
家庭用洗濯洗剤「アタック」がヒットした理由
私が花王にいたときにヒットした商品で、今でも強く記憶に残っているものがあります。それが、洗濯洗剤の「アタック」です。この商品が発売されたとき、私は山梨の販売所で経理の責任者をしていました。販売の部署にいたわけではないのですが、スーパーマーケットに陳列するのを手伝いに行ったことを覚えています。
アタックという商品は、今までになかったコンパクト洗剤でした。当時は、一箱4.1キロの洗剤が主流で、箱のサイズが大きかったのですが、アタックは一箱1.5キロまでコンパクト化したのです。宣伝の効果ももちろんあったと思いますが、商品自体がコンパクトで、さらにスプーン一杯の少量で洗濯ができるというのが受けました。洗濯洗剤で、ここまでコンパクトなものはなかったので、インパクトが強かったのです。
それまでの4.1キロの洗剤は、家庭用としては大きすぎたのです。家に置いておくのに、場所を取ってしまっていました。しかし、1.5キロのアタックは、ちょっとしたスペースがあれば置いておけます。場所を取らず、邪魔になりません。
また、女性が大きな洗剤をスーパーで買って持って帰るのは大変でしたが、アタックは軽いので、持ち運びしやすいという利点もありました。置いておくのも、買って帰るのも楽だということで大ヒットになりました。また、会社にとっても、サイズが小さくなった分、物流と保管の面でコストがかからなくなりました。
消費者、会社双方にとって、まさにwin-winの関係をつくる商品でした。大ヒット商品アタックが生まれたのは、当時の開発チームのリーダーに明確な仮説があったからです。
その仮説とは「今までの家庭用洗濯洗剤はパッケージが大きすぎるのではないか─」というものでした。この仮説にもとづき、チーム一丸となって商品開発を進めたのです。
仮説は「あれもこれも」ではなく「一つ」に絞る
商品のサイズを小さくするには、一回の洗濯に必要な洗剤の量を少なくしなくてはなりません。そこで、このリーダーはチームメンバーに「洗浄力の強い洗剤をつくる」ことを指示しました。彼らの努力の結果生まれたのが、それまでより半分以下のサイズで販売できる洗剤だったというわけです。
もしこのとき、「今までの家庭用洗濯洗剤は高すぎる」という仮説を立てていたら、生まれるのは「大きさはそのままで、これまでより低価格の商品」だったでしょう。これだとアタックほどの大ヒットにはならなかったのではないかと思います。
この成功で、花王はライバルとの差を大きく引き離しました。価格や大きさ、知名度など、消費者が商品を選ぶポイントはいくつも考えられます。しかし、すべてを追いかけるのではなく、一つの要素に絞って仮説を立てたことが成功につながったのです。
阿比留 眞二
株式会社ビズソルネッツ 代表取締役