部下を自分のコピーにしようとした上司の悩み
私は「チームメンバーが自ら動き出すようなストーリーを提示できる人」こそがリーダーにふさわしいと考えています。しかし日本では、そうした能力があるかどうかを見ずに、結果を残しているプレイヤーをそのまま昇格させ、リーダーにしてしまうことが多いものです。
しかし、元・名プレイヤーのリーダーは、部下をうまく動かせないものです。なぜなら、誰もが自分と同レベルの仕事ができると思ってしまうからです。
たとえば、私が研修先で接したリーダーに、間違ったストーリーを描いていることで、マネジメントがうまくいっていない人がいました。営業職の課長だったのですが、「部下が指示通りに動いてくれない」という悩みを抱えていました。
詳しく聞いてみると、「私がこうやれといっているのに、部下は少しも実行せずに、自分はこの仕事に向いていないと訴えてくる」というのです。
彼の問題点は「自分がプレイヤーだったときと同じことをするのを部下に求めている」ところです。つまり、「私のやり方に間違いはない」というわけです。彼はもともと優秀なプレイヤーでした。営業成績は抜群で、それを評価されて課長に昇進しました。
彼が描いているストーリーは、次のようなものです。「営業の仕事はとにかくたくさんのアポイントメントを取ることが大切だ」「外回りなら一日5件は周って、関係づくりをしなくてはならない」「そうやって数をこなしているうちに、力がついてきて、成約率も上がっていく」「結果、目標も達成できるようになり、上司や会社から評価される人材になれる」
一見、シンプルで合理的に見えますが、実行するのはなかなか大変です。営業経験が浅い人は、まず一日5件のアポを取るのに苦労するでしょう。たとえ取れたとしても、資料の準備や提案内容の確認などに時間がかかり、とても5件分も対応することができません。課長が思い描いていたのはまさに自分自身の能力を基準としたストーリーです。チームのメンバー全員が実行できるものではありません。
彼は「私のようにやらなければならない」ということを、常日頃から熱心に部下に対していっていたのです。部下はそれを聞いてうんざりし、心を閉ざしていました。これでは、部下が動いてくれません。上司の期待に応えられないことで自信をなくし、「この仕事は向いていないんだ」と考えるようになっていたのです。
「自分のやり方」の押しつけをやめ、劇的な変化が
私は彼に「部下個人の能力や性格を踏まえて、一人ひとりに合ったストーリーをつくっていく」ことを提案しました。これまで、画一的なマネジメントしかしてこなかった分、かなり苦労はあったようですが、「チームをよくしたい」という一心で熱心に取り組んでくれました。
彼は、メンバー全員と面談をし、チームの目標と部下のビジョンをすり合わせて、納得度の高いストーリーをつくっていったのです。その結果、部下は伸び伸びと仕事に取り組めるようになりました。
今では、上司が細かく指示を出さなくても自分からどんどん動いて、成果を出してくれるまでになっています。この課長のように、部下それぞれにストーリーを提示できれば、チームは変わります。
「自分のやり方」を押しつけているリーダーは、方針を転換し、メンバー一人ひとりに合ったマネジメントをするように、意識してみてください。