不動産が「売れない」理由を取り除いていくと…
市原さんは、不動産の買い手がまったく現れなかった本当の理由を知り、大手不動産仲介会社への売却依頼を取り下げました。そして、改めて、不動産エージェントと媒介契約を結び、5,300万円の売り出し価格にて販売を開始したのです。
レインズには広告掲載区分を「可」にして情報を載せ、他社でも市原さんの不動産を広告展開できるようにしました。「囲い込み」からの解放の第一歩です。
広告掲載区分が「可」になっている物件自体が珍しいので、掲載後にレインズを見た不動産仲介会社から「弊社サイトでも紹介していいか」といった反響が次々と寄せられました。
先方としては自社で紹介できる物件を増やすことができるのですから、活用しない手はありません。大手不動産会社からの掲載依頼もありました。
利己的な手法が商慣習化して定着している業界ですから、売り物件としてもっている不動産を他社に広告展開してもらうのは、見込み収益を半減させる行為ともいえます。囲い込みをすることが当然の会社なら、絶対にあり得ない行為です。「本当に広告してもいいのか」「レインズの登録区分を間違えていないのか」と何度も確認してくる不動産仲介会社もあるくらいです。
過去には、「両手取引狙いで囲い込めばいいのに、なぜ他の会社にも広告させるのか」と率直に尋ねられたことがあります。しかし、「売主の最善を考えたら、囲い込みをせずにできるだけ広く広告するのが一番であるため、他社の力も借りたい」と答えたのですが、先方にはあまり理解はしてもらえませんでした。
現在では、不動産エージェントの理念ややり方に共感する会社も多く、「ある条件の物件を探している顧客がいるのですが、何かいい物件ありませんか」と先手を打つようにして問い合わせが来るようにもなりました。従来の囲い込みが当たり前の不動産業界であればあまり見られない光景です。
広告活動の手段はレインズ経由での要請だけではありません。不動産エージェントのもつネットワークを駆使し、過去に関わったことのある全国の不動産仲介会社へ声を掛けていき、条件の合致する買い手候補を広範囲で探していきました。
不動産仲介会社の反応として多かったのは、やはり建物の古さとリフォームを行っていない点でした。立地は良いものの、抱えている顧客へのアピール材料に乏しいことを懸念していたのです。
確かに現状、周辺地域は築年数の浅い物件やリフォーム済みの物件が多く、見栄えとしてはそちらのほうが優れています。不動産仲介会社にとってはそういった物件のほうが顧客に紹介しやすいのです。
この懸念点を帳消しにできる、むしろプラスにも転換できる材料がありました。近隣の同じような間取りでリフォーム済みマンションが6,500万円で売り出されていたのです。市原さんのマンションと比べて、約1,000万円以上高い価格で販売されています。
担当エージェントAは、リフォーム代の目安として、あらかじめリフォーム業者に700万円の見積もりを出してもらっていました。このリフォーム代700万円を参考値として提供し、自分の好きなようにリフォームができること、物件購入費用とリフォーム費用、合わせて6,350万円程度で済むことを本物件の強みとしたのです。
周辺地域の過去の取引事例の資料も惜しみなく提供しました。遠方の方にも地域の雰囲気が伝わるよう、周辺環境の情報も写真付きで渡しました。アピール材料となりそうな資料は渡せるだけ渡し、先方が抱える顧客に向けて積極的に広告展開してもらうよう要請しました。
買い手候補が購入を躊躇してしまう理由を帳消しにする材料を提供し、物件の魅力を最大限にして伝える工夫を施すことで、内見申し込みへつなげる動機付けを高めていったのです。