(※写真はイメージです/PIXTA)

日本の食料自給率はどんどん低下していています。このような状況で、投機から身を守るために生産国が輸出禁止措置をとりだしたら、日本に食料は入ってこなくなります。それは石油などのエネルギーにしても同じです。ジャーナリストの田村秀男氏が著書『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』(ワニブックスPLUS新書)で解説します。

大規模な財政出動が投機を誘発する

日本でも1980年代後半に、実態とはかけ離れたところで地価や株価が高騰し、バブル経済と呼ばれる状態になったことがあります。あれも、原因は投機です。日本だけでなく、投機によるバブルは世界のどこでも起きます。

 

ウクライナ侵攻で開発途上国の人たちの食べる物がなくなったと解説されるのですが、じつは、そうした状況をつくり出している主たる要因は投機です。ウクライナ侵攻が収束しても、投機がなくならないかぎりは、いつでも物価の高騰が起きる可能性はあるし、食べ物や燃料で困る人たちがいなくなることもありません。

 

私たちが生計を立てている実体経済は金融市場と切っても切り離せません。金融市場は金利と通貨量が二大変動要因で、発券銀行である中央銀行が金利と通貨量を調節できます。したがって、中央銀行による金融政策の即効性は高いのです。

 

金融市場は預金や株式、債券など証券、さらに先物などデリバティブ(金融派生商品)で構成されます。これらの金融資産を総合したのが金融経済です。家計や企業が実体経済活動で使い切れないカネは金融市場で運用され、増殖したり収縮したりします。そして相場が上昇した証券をもつ企業、機関投資家、年金基金は配当を通じて家計などに還元します。

 

2008年9月のリーマン・ショックでは急激に大規模な金融経済の萎縮が起き、実体経済にも深刻な打撃を及ぼしたのですが、このときはFRBが空前絶後の量的拡大策を敢行して住宅ローン証券や国債相場を押し上げることに成功し、1930年代の大恐慌の再来を防いだのです。

 

企業によるモノやサービスの生産、人々の労働、家計の消費など民間の行動に依拠する実体経済は、財政支出、課税、法制など政府の政策の影響は限られますし、政策の効果が表れるまでには時間がかかります。

 

たとえば、不況時の公共投資の拡大など一過性の緊急経済対策は、一部の失業救済にはなりますが、家計消費、企業の雇用を継続的に増大させることはできません。

 

新型コロナウイルス不況対策としての政府による国民への現金給付を受けても、家計はただちに全額を消費に回すことはなく、消費需要の縮小度合いを軽くする程度にとどまります。財政など政府の経済政策が実体経済で効果を出すまでにはかなりの時間がかかるのです。

 

その点、金融政策はただちに金融市場を安定させる可能性が高い。さらに、政府の財政出動との合わせ技で景気回復を早めることもできます。

 

新型コロナ・パンデミックが発生した2020年3月、米政府は大規模な財政支出拡大に向け国債を増発しました。FRBはそれに呼応して国債を買い上げる量的緩和策に踏み切り、翌年には景気のV字型回復に成功したのです。

 

とはいえ、金融経済は投機といった悪い面も助長します。金融市場というものは人体における血液循環のようなもので、順調にカネが循環している場合は輸血(中央銀行による量的緩和、即ちカネの注入)は余計です。


 
しかし、リーマン・ショックや新型コロナショックといった〝大事故〞に見舞われた場合、大量の輸血がないと金融経済は崩壊してしまいます。とはいえ金融市場が正常化するにつれて、輸血されたカネは金融市場から溢れて、投機勢力の手に渡ります。ウクライナ侵攻に端を発する投機も、その悪い面が極端な形で表れたわけです。

 

次ページ日本の食料自給率は低下は致命的

本連載は田村秀男氏の著書『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』(ワニブックスPLUS新書)より一部を抜粋し、再編集したものです。

日本経済は再生できるか

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田村 秀男

ワニブックス

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