社長紹介の顧客を営業担当の社員に任せられない!?
別例として、お客様の情報を共有できなかったことで生じる、建設業界での少し恐ろしい「あるある」話があります。
Aさんからの紹介で、Bさんと商談をすることになりました。しかし、困ったことに「どんなお客様か」という詳細がわかりません。Aさんだったか、Cさんだったか、はたまたDさんからの紹介だったかがわからなくなってしまった……。
詳細がわからないということは、目の前にいるBさんがどういういきさつで商談に臨んでいるのか、Bさんの後ろにあるストーリーが読み取れなくなります。相手のことを理解しながら話しているわけではないので、理解している状態と比べ、営業側も歯切れが悪くなってしまうのではないでしょうか。
「紹介なのに詳細がわからないなんてありうるのか?」と思われるかもしれませんが、このケースは、社長から紹介された顧客を営業担当が代理対応するときなどによく発生している「あるある」です。情報連携がきちんとできていないわけですから、大事な商談相手に下手を打ってもいけないとばかりに、代理対応をさせず、社長自らが対応し続ける……。
「うちの営業には任せられないんだ。だから社長の私がとにかく顧客対応まで忙しい羽目になる」と、おっしゃる方を時おり見かけます。ですが、任せられないのは情報を受け渡していないからであり、商談にまつわるお客様のストーリーを共有できていれば、むしろ営業社員のほうがアグレッシブに成約を決めてくるということもよくある話なのです。
この営業の例と同じく多いのが、現場で活躍する職人たちの技術継承の場面での、知識や経験の受け渡しです。昔の職人は「技は盗むもの」だったり「背中を見せて育てる」という価値観を持っていました。これを否定するわけではありませんが、ただでさえ職人の人数が少なくなっている中、先達が培ってきた技術を若手が余さず承継していくことは非常に重要になっていきます。継承できず職人のクオリティが下がれば、企業としてのリスクが増す一方だからです。
現場で経験してきた事例をはじめ、施工技術の積み重ね、職人同士のネットワーク(信頼関係)というような蓄積がなければ、現場の進行もスムーズにはいかなくなるでしょう。情報連携が仕組み化されると、施工だけに目を奪われず、後進の育成にも力を注げるようになりますので、ひいては企業の安定維持につながっていきます。
小松延顕
株式会社Office Concierge(オフィス コンシェルジュ)
代表