(写真はイメージです/PIXTA)

日本において着実にキャッシュレス化が進展しているなか、SDGsやESGの取組みにおいて、キャッシュレス化がサステナブルな社会の実現に寄与するとの考え方が浸透しつつあります。ニッセイ基礎研究所 福本勇樹氏が、キャッシュレス決済に伴う環境負荷について考察していきます。

2―現金決済に伴う環境負荷

まずは、現金決済に伴う環境負荷について、具体的に考察してみる。硬貨・紙幣は物理的なもので、金属・プラスチック・紙などから製造され、市中で流通し、最終的に使えないと判断されれば回収・廃棄されるが、それに伴って様々な環境負荷が生じている。

 

1.現金の製造に伴う環境負荷

現金決済では物理的に紙幣・硬貨を使用する。原材料という観点では、硬貨の製造には金属が必要で、紙幣の製造には植物やプラスチックなどが必要になる。また偽造防止のため高度な印刷技術も用いられる。日本では紙幣の原材料にみつまたや麻(マニラ麻)が使用されている。海外の報告によると、現金の原材料として金属やプラスチックなどを用いた場合と比較して、原材料として植物を用いるのは成長過程で大気中の二酸化炭素を吸収する点で環境にやさしいと言えるが、栽培過程での農薬・水の利用や加工時のエネルギーの消費量の観点で環境負荷がかかっていると指摘できる(BOE[2013]*3)。

 

*3:Bank of England, ”LCA of Paper and polymer banknotes,” June 9, 2013

 

2.現金の寿命に伴う環境負荷

循環型社会の実現という観点で、硬貨よりも紙幣を用いることに課題がある。物理的な紙幣・硬貨は破損などの理由で再流通に適さないと判断されると回収・廃棄され、新しく製造された紙幣・硬貨が流通することになる。硬貨は一度製造されると半永久的に使用可能と考えられ、硬貨を製造する際の原材料として流通済みのものを使用することも紙幣と比べて相対的に容易だと考えられる。

 

一方で、日本銀行によると、紙幣については1万円札で4~5年程度、5千円札と千円札は1~2年程度の寿命となっている。再流通に適さないとして回収された紙幣は細かく裁断され、トイレットペーパーとしてリサイクルされるか焼却処分されている。植物由来の紙幣については硬貨やプラスチックなどと比較して相対的に寿命が短く、原材料として紙幣そのものをリサイクルするのが金属製の硬貨と比べて難しいという意味でも、環境負荷が相対的に高くなる(BOE[2013])。

 

3.現金の流通に伴う環境負荷

財布に現金を入れておく、または消費者と店舗で現金を手渡しする場面のみを抽出すると、エネルギーを消費しないのでキャッシュレス決済と比較して環境負荷は小さいと言える。実際に現金が流通する際に問題になるのは、決済インフラの使用や保管・輸送などに伴うエネルギー消費である。

 

たとえば、エネルギー消費を伴う決済インフラに該当するものとしてATM、POSレジ、両替機、マネーカウンター、自動販売機、食券機、券売機などが挙げられる。これらの機械の製造や寿命といった観点で前項と同様の問題も発生する。

 

さらに、これらの機器には経年劣化の問題だけではなく、紙幣・硬貨がこれらの機器と接触するなどの要因で破損や摩耗が生じやすくなる点も無視できない。安全に管理・保管・運搬するための輸送コストも、現金が多額であるほど堅牢な管理・保管・移動手段(例:金庫、現金輸送車など)が必要になり、それに伴うエネルギー消費量を伴うことになる。

 

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※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2022年10月14日に公開したレポートを転載したものです。

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