(写真はイメージです/PIXTA)

日本において着実にキャッシュレス化が進展しているなか、SDGsやESGの取組みにおいて、キャッシュレス化がサステナブルな社会の実現に寄与するとの考え方が浸透しつつあります。ニッセイ基礎研究所 福本勇樹氏が、キャッシュレス決済に伴う環境負荷について考察していきます。

4―まとめ

Institute and Faculty of Actuaries [2018]の考察を踏まえると、各決済手段の環境負荷に対する評価は図表のようになる*8。一般論として、キャッシュレス化によって、現金決済における製造・寿命・流通に伴う環境負荷をいくらか軽減することができるが、キャッシュレス化によって環境負荷が全くなくなるわけではない。キャッシュレス化による環境負荷の軽減効果は、直接的には分かりにくいようなカードやスマートフォンなどのデバイスやそれに関連した決済端末などの機器を生産・維持するための負荷も考慮に入れた上で判断していく必要があるだろう。

 

【図表】各決済手段がもたらす環境負荷に関する相対的な評価

 

これまで述べてきたように、現時点では現金決済においてもキャッシュレス決済においても環境にやさしい面とそうでない面があり、環境対応の観点でどの決済手段がサステナブルな社会の実現に寄与するのかは相対的な評価によるということになる。

 

カーボンニュートラルや循環型社会を実現するという意味では、紙幣をやめて金属製の硬貨にすべて寄せるという解決案もあろうが、資源が有限であること、移行にかかるコストなども総合的に考慮に入れると、キャッシュレス決済の方が環境にやさしいという評価になるものと思われる。すでにキャッシュレス化が進展している中で、カード決済やQRコード決済(特に店舗提示型)のリソースにまだ余裕があるのであれば、これらのキャッシュレス決済手段に寄せていくことが現時点では有益な判断だと言えるのだろう。

 

ただし、この結論は長期的なものではなく、あくまでも現時点での短中期的なものといえる。エネルギー消費やリサイクルなどの分野では循環型経済に向けた技術革新が日進月歩で進展しており、本稿で述べたようなカード決済やQRコード決済に伴う環境負荷を軽減していくような措置(寿命の長期化、再生エネルギー活用など)に関する効果測定も含めて、キャッシュレス化による環境負荷の軽減効果については逐次検証し、情報を更新していくことが必要だと考える。

 

*8:英国のキャッシュレス決済事業者であるPomelo Payによると、紙製よりもポリマー製の紙幣は長寿命だが、温室効果ガスの排出量が多く、廃棄物による環境負荷も大きいとする調査結果があり、必ずしもポリマー製の方が環境負荷の面で優れているとは断定できないと述べている("Why going cashless is better for the environment,” September 8, 2020)。

 

※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2022年10月14日に公開したレポートを転載したものです。

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