「流暢性の罠」が記憶の定着を妨げる
【回答4】自分をテストしましょう
近年のさまざまな研究によって、記憶も含めた効果的な学習法が報告されています。その中でも、特に記憶学習にとって最強の学習法といわれているものが、「想起練習」とよばれる方法です。
想起とは記憶の中の「思い出す」という段階のことです。簡単におさらいすると、記憶とは「記銘(覚える)」→「保持(覚えておく)」→「想起(思い出す)」という3つの工程でできています。中でも想起の段階が重要ということなのです。
この想起練習の考え方は、思い出すという行為を学習に取り入れることによって、飛躍的に記憶の定着率が向上するというものです。記憶というと、記銘(覚える)といったインプットのみに注目しがちですが、想起する(思い出す)ことができないと、記憶として定着したことにはなりません。文章を記憶する場合を例にとって、想起練習の考え方を説明します。
ある文章を覚えるときに一番手っ取り早い方法といえば、その文章を見ながら何度も声に出して読むという方法が思い付きます。このようにして文章を覚えた経験のある方もいることでしょう。確かにその方法でもいつかは覚えることができます。
しかし、ただ文章を目で追いながら繰り返し読んで覚えるよりも、想起練習の考え方を取り入れることによって、記憶の定着率が50%以上もアップするという研究結果があるのです。
文章を覚える場合における想起練習とは、その文章が何となくぼんやりと頭に入った段階で実際の文字を見るのをやめて、頭の中だけで文章を思い出してみるという方法です。文章を見たまま繰り返し読んで覚えるよりも、なるべく文章を見ないで思い出しながら覚えることで、脳の神経回路が強化され、より素早く・より強く記憶に定着することになるのです。
なお、想起練習による効果を「テスト効果」とよんだりもします。つまり、記憶学習に関しては、自分自身で思い出せるかテストすることが最強の学習法だというわけです。
山田さんの今の勉強法には、自分自身の記憶レベルを確認する、つまり、テストする作業が欠けているというわけです。模擬試験などを受ければ、当然、思い出すという作業が必要になります。その時点での記憶レベルの確認も含め、とても有効な手段といえます。
さらに、今の山田さんには、もう1つ危険な落とし穴があります。それは「流暢性の罠」とよばれるものです。
流暢性とは、情報を適切に、素早く、たくさん処理できる能力のことをいいます。一見、勉強にはとても役立つ能力に思えますが、ここに落とし穴が存在しているのです。これが流暢性の罠です。
学生時代に、教科書の重要項目を蛍光ペンなどのマーカーで線を引いて覚えていたという方はいませんか。私の学生時代にも周りにいたので、この方法をとっている人は結構多いのだと思います。
マーキングしながら、「これも覚えている」「これも大丈夫」と自分の記憶に自信を持ちます。そして、実際にテストになり問題を眺めてみると、何と教科書にマークしたところが出ているではありませんか。「よし、これはいけるぞ」と思って、いざ問題を解こうとすると、マークした箇所だというのはわかるのですが、内容を思い出せないのです。この現象こそが流暢性の罠なのです。
流暢性とは、人間の情報処理にとってとても便利な能力なのですが、この能力がかえって悪さをすることがあるのです。教科書にマークをするときはその部分を学んだ直後なので、当然、すぐに思い出すことができます。この状態でマークしたことにより、その部分は完璧に覚えたと錯覚を起こしてしまうのです。
しかし実際は、マークした時点から記憶は刻々と薄れていっているというわけです。それを防ぐのが、先程述べた自分で自分をテストする想起練習=テスト効果なのです。
山田さんが今のまま進むと、流暢性の罠にはまる可能性があったのです。
普段の勉強で想起練習をする方法の1つが、フラッシュカードの利用です。要するに、昔から存在する英単語を覚えるときに使う単語カードです。単語カードというのは、認知心理学的にはとても効率的な学習法だったわけです。
池田 義博
記憶力日本選手権大会最多優勝者(6回)
世界記憶力グランドマスター
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