脳は全体像が分かると高い成果をだす
【回答】スピードを優先しましょう
皆さんの中にも、物事をじっくり進めていくタイプの方はいるでしょう。先程もいったように、このじっくり着実に進めていくという態度は、人生において多くの場合、目標達成や成功の鍵ともいえます。しかし、広い範囲を持つ学習、例えば山田さんの資格試験のような、特に記憶が必要な勉強においては、この考え方は封印したほうが賢明です。これもまた、記憶の性格によるものです。
そこから導き出されるとるべき記憶学習の進め方は、じっくりの真逆、スピード最優先ということになります。スピードとは、テキストや教科書を読み進めるスピードのことです。
こう聞くと、じっくり派の皆さんからは当然のごとく疑問の声が上がると思います。そんな進め方をしたら、それぞれの知識が頭の中に定着しないままになってしまうのではないかとの疑問も当然のことと思います。
実際そのとおりで、スピードを優先すればその時点での記憶の定着率は低いまま進むことになります。しかし、試験に向けて最終的に有効な記憶の作り方としては、これが最適なのです。最終的に有効な記憶とはどんな記憶かというと、本番のときに忘れずに頭の中に残っていて、しかも使いこなせる記憶のことです。心理学的には、「分散効果」というものが当てはまります。
さすがにスピード重視で進めて1回読んだだけでは、このような記憶を作ることはできません。その時点での記憶の定着率は低くても、気にせずどんどん先に進んでいき、まずはとにかく、できるだけ早く全範囲に目を通すことを目指します。そして、また同じようにスピード重視で最初から学習を進めていき、これを何回転も繰り返すのです。
イメージとしては、じっくり進む派の学習はレンガ積み、スピード派の学習はペンキ塗りです。
レンガ積みは時間がかかるので、そのうちに以前積んだレンガが劣化してしまいます。これが記憶の忘却です。一見着実なようですが、記憶は忘却するものです。ゆっくり進んでいるうちに前の記憶が薄れてしまうという弱点があるのです。
それに対し、スピード重視のペンキ塗りはどうでしょう。ここで皆さんには、壁をペンキで塗り直すという作業を想像していただきたいのです。ある範囲の壁を新しいペンキで塗り直す場合、一度できれいに仕上がるものでしょうか。
たぶん、塗り残しがあったり、厚いところ薄いところの塗りムラがあったりして、一度ではきれいには仕上がらないはずです。完成させるには、何度も塗り重ねる必要があるということです。範囲がある場合の記憶学習もまったく同じです。壁のペンキ塗りのように、薄い記憶を何度も重ね、その結果、厚い記憶にすることで、長い期間頭に残る強い記憶にできるのです。
スピード重視で学習を進める利点は他にもあります。それは学習を続けていくにあたってのメンタルに関するものです。メンタルの問題とは、まさに今回山田さんが陥った心理状態です。
じっくり着実に覚えていくタイプは、当然、その進み具合もゆっくりです。するとあるときふと、最終的にあそこまで覚える必要があるのに、まだこんなところまでしか来ていないと考えるのです。一度そう考えてしまうと、山田さんのように気持ちが折れやすくなってしまいます。
それに対して、スピード重視で進めた場合、先程の説明のように1回での記憶の定着率は低いですが、とにかく学習範囲の全体像を目にすることができます。脳が持っている性質として、全体像を見ることができないものに対しては不安を覚えるというのがあります。脳が不安になると、本来の実力を抑えてしてしまう可能性さえあります。
反対に、脳は全体像を見ることができれば、安心して高いパフォーマンスを発揮してくれるというわけです。
加えて、二度目からの復習も非常に効率がよくなります。全体像を把握した脳は、優先的に足りないところをピックアップしてくれるからです。当然、一度目よりは二度目、二度目よりは三度目というように復習のスピードも速くなり、その結果、厚い記憶や強い記憶になっていくのです。
皆さんも、試験勉強で広範な内容や、仕事で大量の資料の内容を頭に入れる必要が出てきた際には、じっくり覚えていくのではなく、一度での定着率は低くても、スピードを上げて回転数を増やして覚えるようにしてください。
池田 義博
記憶力日本選手権大会最多優勝者(6回)
世界記憶力グランドマスター
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