(※写真はイメージです/PIXTA)

新型コロナウイルスのパンデミックをきっかけに世界中で普及したオンライン診療。イギリスでは、コロナの流行前から政府も推し進めており、パンデミックはその追い風となりました。本記事では、イギリスのオンライン診療の現状をみていきましょう。

 

イギリスにおけるオンライン診療推進の背景

2005年にはスタート

イギリスでもオンライン診療が進んでいます。「Connecting for Health」という国家プロジェクトが進められました。これは、NHSのITインフラの維持・開発する役割を担う保健情報学局の一部として、2005年に設立されました。

 

英国保健省の主導権の一部をNHSに移動し、3万人の一般開業医を300の病院と接続することで、認可された医療専門家の記録をアクセス可能にして、安全に提供するというものでした(2013年にConnecting for Healthはなくなり、保健ソーシャルケア情報センターというところで活動は継続されています)。

 

オンライン診療の実証実験

イギリスでは2008年〜2010年にかけて、オンライン診療(遠隔診療)の実証事業を行いました。患者は約3,000人で、肺疾患、糖尿病、慢性心不全の3つの病気を対象としたものでした。

 

その結果、オンライン診療(遠隔診療)を実施したことで、直接の対面診療よりも死亡率がなんと45%も減ったのです。この事業はオンライン診療だけではなく、オンライン診療と対面診療の組み合わせとして行われました。そして、このオンライン診療の実証事業により、患者を1年延命させるためには、コストが1,300万円も必要となることがわかったのです。

 

この当時のイギリスでは、通常医療におけるコストの限度額を1人あたり420万円に設定していました。オンライン診療は、そのコストをはるかに超える高額医療であることが明らかになったのです。その要因は、オンライン診療用の医療機器と通信に掛かるコストが予想以上に掛かったとみられています。

 

問題が多い「NHS」のシステム

イギリスの世論では、NHSのシステムは既に破綻しているともいわれています。イギリスでは、GP(かかりつけ医)の予約が取りづらいだけでなく、診療の予約は2~3週間待つのは当たり前で、医師や看護師の人材不足によるサービスの質の低下も含めて、国民の不満は増すばかりでした。

 

ですから、診察までの待ち時間が短い私立病院を利用する人も多いのですが、高い診療代が発生します。さらに移民の増加により、医療費は膨らみ続け、医療費による国家予算の圧迫を改善するためには、オンラインの導入は必要に迫られた状況でもあったのです。

 

コロナはオンライン促進のさらなる追い風

オンライン診療の予約は多くの患者さんから支持を得ます。その結果、オンライン診療を活用する計画の見直しに取組むことになります。2018年にメイ首相はNHSの予算拡大を行います。その予算に基づき、2023年までにすべてのイギリス市民のためのmHealth(モバイルヘルス:携帯情報端末による医療への導入・アクセス)を予見する取組であるデジタル事業の長期計画を発表します。

 

翌2019年には、イギリスの国民保健サービスは、5年間で遠隔医療と遠隔診療を標準化する案を提唱します。そこに新型コロナウイルスの感染拡大が影響し、オンライン診療は更に拡大することになるのです。政府はGP(一般開業医)に対して、対面診療からオンライン診療へ切り替えるよう指示を出します。このトップダウンは、日本も是非参考にすべきです(世論も含めていろいろと難しい可能性も)。

 

その後、民間企業により、ビデオ通話によるオンライン診療の機能が提供されます。このツールにより、オンライン診療が1日に3万件以上行われることになります。この流れのなかで、大手の薬局も薬のオンラインサービスを開始します。「オンライン・ドクターサービス」というサイトでは、ウェブ上で症状を伝えれば、かかりつけ医の処方箋がなくても、オンラインで処方箋を受け取れるサービスを行いました。イギリスでも、国民の医療体制における不満の解消がオンライン診療の普及・拡大に繋がっています。

 

そしてここでも、ほかの国同様、新型コロナウイルスの感染拡大による危機に対応することが追い風となったのです。生命の危機を回避するための対応・措置は人類の歴史でもあります。新型コロナウイルスの感染拡大は、オンライン診療に足踏みしていた政府や社会の背を押したということになります。「歴史から学ぶ」という言葉を耳にします。それを忘れるのも、また人類なのです。

 

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開業医を救うオンライン診療

開業医を救うオンライン診療

鈴木 幹啓

幻冬舎メディアコンサルティング

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